やっぱりドクター
「いやいや危うく死ぬところじゃったわい!」
俺はひと段落したところで、とっとこ嬉しそうに手を振って戻って来た爺さんの話を聞くことになったわけだが……。
とはいえだ、俺は落ち着いてこの爺さんを眺めてみると、嫌な予感しかしなかった。
まず白衣である。丸っこい体に身に着けているのは間違いなくあのお医者さんなどが来ている真っ白な服だ。
そして怪し気な片眼鏡はキュイキュイと音を出して勝手にピントを合わせている。
すごく怪しい、そしてマッドでサイエンスチックだ。
明らかに何かありそうなこの爺さんに、俺はいったん深呼吸をして心を落ち着けてから尋ねた。
「で、いったい一体何があったんだ?」
まずはジャブである。
爺さんは禿げた頭をピシャリと叩き、愉快に笑って言った。
「なぁに、ちょっと実験が失敗しただけじゃって」
「実験?」
「そうじゃよ? ちいとばっかし実験をしておったらな? あとちょっとで完成!という段になってくしゃみでコーヒーをこぼしたのがまずかった。気が付いたらなぜか命を狙われるようになってしもうてな! ヒョッヒョッヒョ!」
なんだかもう、完全にアウトな気がした。
そしてきっと謎のメカ的なタイツ集団に追われるのはちょっとやそっとの失敗とは言わない。
「どう間違ったらそんなことになるんだよ……」
あきれ果てている俺に、爺さんはあっけらかんとしたものである。
「さあのー。まっこういうこともあるんじゃないかいのー!」
「ねぇよ普通」
「ヒョッヒョッヒョ! ないか! わしもそうなんじゃないかと思っとった!」
「……」
イメージが違う。なんだかもっと極悪非道だと思っていたのだが、まぁいい。
最後に俺は、仕方がないので確信を得るべく決定的な質問をした。
「……あんた名前は?」
すると爺さんはその場で立ち上がり、嬉々として自分の名前を宣言した。
「よくぞ聞いた小僧! 我が名はドクターダイス! 悪魔の頭脳を持つ、究極のマッドサイエンティストと言ったらこのわしのことじゃ!」
やっぱり自称しちゃった!
思っていた以上に堂々と思った通りだったドクターダイスは、今度はキラキラと目を輝かせて俺に詰め寄る。
「ところでそろそろわしが質問するぞい! わしも正直に答えたんじゃからええじゃろ? な? ええじゃろ?」
「……やだ」
「ヒョ!?」
もちろんちっともよくはないが。
この自称マッドサイエンティストは、どうにも目の前にするととても不安な気分にさせられた。