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バイクの旅

「ふっ……風が俺を呼んでいるな」


 ハーフタイプのヘルメットを被り、ゴーグルを装着。


 普段の旅支度とは別に、皮で出来たジャケットとズボンを着込んだのはとても大事なことである。


 このワイルドな格好が、俺の中の風来坊を呼び覚ますのだ。


 簡単に言えばテンション上がる。


 それはともかく、ソローリと安全に発進して旅は始まった。


 思ったよりも静かなエンジン音が旅のBGMである。


 後ろにニーニャと大量の旅の荷物を乗せていてもバイクの性能にいささかの衰えも感じられなかった。


「思ったより安定してる。すごいの作ったなテラさん」


『発掘されたバイクに、エンジンには火の魔石を搭載しています。さらに、エレクトロコアから電力供給を受けることによってさらに高い馬力が実現できます』


「おお、異世界ハイブリッド。こいつにもエレクトロコア搭載してるのか?」


『はい。パワードスーツ着用時ですと、二つのコアを接続してより出力をアップできます』


「そんな秘密機能が……よし、機会があったら使ってみることにしよう」


 というか、もっと早くやっていればよかった。


 踏み固められたまっすぐな街道を、ただひたすらバイクに乗って駆け抜けるのは癖になりそうなほど最高だった。


「ニーニャ! 大丈夫か!」


 そう声をかけると、こういう時便利なのはテレパシーである。


【大丈夫!】


 風の音に影響されることもなく、ニーニャの声は俺の頭にダイレクトに響いてくる。


 ニーニャは、まだためらいこそあるものの、このバイクの旅自体は楽しんでいるのか、返ってくる返事は元気がいい。


 俺もそろそろ二人乗りにも慣れて来たので、もう少しだけアクセルを開けた。


 グンと負荷がかかり、バイクは加速する。


「おお!」


 その加速に声が出る。


 ぎゅっとニーニャのしがみつく力も強くなった。


「……結構楽しいなこれ」


 風景の流れるスピードが速くなり、直接肌に感じるまるで風の海を突っ切っているような抵抗は、中々に新鮮な感触だ。


 そんな時ニーニャの思念が飛んでくる。


【……もうちょっとスピード上げてもよい!】


「ヒャッハー! いいなこれ! スピード上げろ!」


 マー坊にも実に好評なようで、俺はアクセルを握る手に力を籠める。


「よし、他に対向車がいるわけじゃないんだ。目的地に着くまでに最高速も試してみるかな」


 幸い旅はまだまだ続く。試す時間はいくらでもありそうである。




 旅は順調だった。


 そのうち道がなくなって、足は遅くなったがこのバイクはそんなものもろともせずにきびきび走る。


 俺達は日が陰り始めたのを見計らって、通りがかった荒野の岩の崖を風よけにキャンプをする。


 ニーニャの魔法であっという間に焚火を起こし、俺達は沈む夕日を見ながら話をした。


「モンスターが出るかもしれないから、交代で見張りをしよう」


【わかった】


 テントを張り終えた俺は、焚火を挟んだ向かい側に腰を下ろす。


 ゆっくりと、周囲の色が褪せていき、燃えるようなオレンジからから、深い蒼へ変わってゆく。


 しばしぱちぱちと焚火の木が弾ける音だけが続く静かな時間が続いたが、そんな静寂を破ったのはニーニャだった。


【……ありがとう】


「……どうした急に?」


【私が迷っていたから、てんちょは私の手を引いた。だからありがとう】


 ふむ、おおよそばれてしまっているようだ。


 しかし礼を言われるというのは違う気がした。


 迷っているのはわかったが、行きたくないのもわかっていたからだ。


「いや、勝手に俺が首を突っ込んだだけだろう。そういう意味じゃ俺の方が礼を言わなけりゃいけない」


 想像するのは、ニーニャが故郷でいじめられていたり迫害されている姿だったが、伝わってしまったらしくニーニャは首を振る。


【いじめられたわけじゃない。あの人達はむしろ私を大切にしてくれた】


「そうなのか?」


【そう】


 予想外の言葉に俺が驚くと、ニーニャは頷いて肯定する。


【私は変わっていた。教えられずにどんな魔法も使えたし、子供の時から私の力は誰よりも強かった。精霊様はこんな子供は見たことがないと言った。大事にされたけど、みんな怖がっていた】


「態度が露骨だったとか?」


【ジンは嘘が付けない。思っていることはすぐ伝わる】


「あー」


【特に私は感じる力も強いから、同族ならわからないところまでも読める】


「……そいつはかなりきつそうだなぁ」


 嘘というのは場合によっては必要な時もあるだろう。


 基本的に恐れが伝わっているのなら罵倒されながら優しくされているようなものなのではないだろうか?


 こればかりは心なんて読んだことのない俺にはわからないが、ニーニャのためらいを見ていればおのずと想像することはできた。


【みんなは悪くない。私が変だっただけ。怖かっただけ】


 そう言ってニーニャはしょんぼりと肩を落とす。


「うーん。迂闊にわかるとも言えないけど……」


【……】


「ただ、わかっていることもある。実は出会ったばかりの頃、魔王に乗っ取られている夢を見たことがあるんだが」


【……うん】


「ありゃあ。いなくなるにしても唐突すぎる。魔王に誘拐された感じだろうから、顔を出しておくのもいいと思う。案外嫌なことばかりでもないかもしれない」


【うーん】


 ニーニャはそんなセリフを聞いて、思ってもみなかったのか首をかしげていた。


【……それはそうかも】


「まぁ、そのあとはニーニャ次第かな。トシ達だけじゃ心配だけど」


 少しおどけて話すとニーニャはクスリと笑った。


 だが話の流れが悪くなってくると黙っていられなかったのか、ニーニャの身体からぼこぼこと黒い塊が出てきて、大きな一つ目を見開いて抗議してきた。


「え? 俺様が全部悪い感じ? そっち持っていくか?」


「そりゃあ……誘拐犯を弁護はできねぇよ」


 うん。夢が丸っと本当にあったことだとは限らないが、取りつかれる瞬間などホラーだった。


 あれだけでも、こいつは有罪である。


「……そうだなー。いや! でも今の話の流れだと、そうとも言えなくないか?」


「……どうかなぁ。俺の判断では決めかねるなぁ」


 マー坊は汗を飛ばして焦り気味だが、背後のニーニャはゆっくりと両手を開く。


 そしてパチンと優しめにマー坊を掌で叩き潰していた。


 心情としては複雑……そう言うことなんじゃないか? と口には出さなかったがコクンとニーニャは頷いていた。


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