精霊の森会議
「よし、じゃあ。今後の作戦会議と行こうか。諸君」
俺はそう言って、メンバーを見渡した。遅れて地下秘密基地に集まった面々は、まるで俺がそう言い出すとわかっていたみたいである。
ニーニャとトシはもちろん、リッキーとシルナークもテーブルを囲んでいた。
「それでいつ出るんだい? あんまり複雑なこと言うなよ?」
リッキーは尋ねる。
「そうだぞ? 全員集めた時は嫌な予感しかしない。トラブルを解決するつもりなら早く動くべきだぞ」
シルナークのくぎを刺すような発言だが、先回りして言うことではないと思う。
「パワードスーツの改良とかは……諦めた方がいいかな。でも今回は精霊の森の移動手段がない。地道に旅するしかないから時間がかかる」
こればかりはどうしようもない。
ひょっとするとイーグルに頼めば、送ってくれたのかもしれないが、行くなと警告してくれた相手に送ってくれと頼むのは筋違いではあるだろう。
「どこにあるかは知らないけど、道はニーニャが分かるだろう」
ニーニャは頷いたもののまだ気は進まなそうだった。
「あとは一緒に行くメンバーと、誰が残るかだが」
「僕が残る」
「私は残ろう」
ほとんど同時に手を上げるのはもちろんリッキーとシルナークだ。
「うん、知ってた。まぁ店は好きにして構わんよ。店も直さなきゃならないだろうし、面倒をかけることになる」
「それは構わないよ? むしろ都合がいい」
「ある程度好きにやってもいいのだろう?」
「ほどほどに頼むよ? 俺の要望はテラさんから聞いておいてくれ。それと……地下のことは秘密で頼む」
「任せておいてよ」
「ああ、うまくやってみせるとも」
自信満々に胸を叩く二人は妙に自信満々で、何を企んでいるのかちょっとおっかない。
「ああ、よろしく頼む」
だがもう任せるとは決めている。
必要以上に大きく頷いた俺だったが、そこで二人はにんまり笑った。
そして今度はリッキーがよしよしと頷き、ある提案をした。
「それはそうと、足が欲しいんだよね? なら僕らがいいものを持ってる。そいつを使ってみたらどうだい?」
「いいもの?」
俺はリッキーの提案に身構えていたが、今度は妙な企みではないようだった。
「そう! 何も僕らは君の留守中に店の乗っ取りにだけ精を出してたわけじゃないってことさ」
サラッと店の乗っ取りとか言っちゃってるリッキーは、楽し気にどこか消えたかと思うと、ゴロゴロと何かを押して戻って来た。
「え、それって、バイクか?」
「なんて呼ぶかは知らないけど、面白そうだから拾って直したんだよ」
「こいつなら、移動手段になるんじゃないか?」
シルナークも知っていたようで、ピカピカに磨き上げられたそれを楽し気に手の平でたたいている。
ざっと見ただけでも新車のようで、素人が整備したものとは思えない。
「お前ら、こんなことしてたのか……」
リッキーが持ってきたバイクはかなり大型のものだ。真っ白で妙にヒロイックなデザインだがパワードスーツで乗ればそれなりに見栄えがしそうなところを見ると、俺達の世界の物ではないのかもしれない。
これなら確かに長旅にも対応できそうである。
「バイクに詳しくはないが……荷物も乗りそうだな。二人乗りだよな。ってことは今回は俺とニーニャの二人旅か」
いや正確にはマー坊も含めれば三人旅。
ちょうどいいと言えばちょうどいいか。
自動的に人数が決まるのなら、この話し合いは終わったようなものだ。
「……よし。じゃあメンバーは決まりだな。トシは今回留守番で頼む」
そう言うと、心なしトシは不満そうである。
俺はトシの頭をなでる。
「たぶん店は大掛かりな改装になる。今回店の復興はトシにかかっていると言っていいから頑張ってくれ」
「!わかった!」
元気に返事をするトシがいれば、力仕事はこれ以上ない戦力だ。
それにそのうちシャリオお嬢様も来るだろうことも考えると、誰か顔なじみがいないと支障をきたしそうではあった。
「まぁ一筆書いておけば大丈夫だろう。じゃあそういう感じで準備を始めよう。出発は……三日後くらいにしようか?」
「ダイキチにしては慎重だね、乗り物の整備はしてあるよ?」
リッキーが思いのほか長い準備期間に不思議そうに首をかしげていた。
いや俺だって旅の準備は手早く終わらせる派なんだけど。
「俺バイク乗ったことないから、ちょっと練習もしたいし……」
それに今回はどうにも大事になりそうな予感がしていた。