ニーニャの話
「じゃあオレ達はそろそろ帰るとするよ」
そう言うとイーグルはクマ達に声をかける。
「ホラお前達行くよ」
思い思いに遊んでいたクマ達は慌てた様子で集まる。
全員が集まったことを確認するとイーグルはクマを引き連れ、帰って行った。
「それじゃ……俺ちょっと移動するから後は頼んでいいか? ニーニャちょっと秘密基地に行こう」
【……】
とりあえず、リッキーとシルナークは黙ってうなずき解散となった。
俺はいったんゲートから地下秘密基地へと移動する。
そしてここ最近の景気の良さで、かなり綺麗になった秘密基地の椅子に座り、ほうっと一息つき、落ち着かない様子のニーニャに尋ねた。
「精霊の森に、ドクターダイス。これまた妙な話を持ってきたなぁ……それでニーニャ? 一体何事?」
改めて捨て置けない質問をしたが、ニーニャの答えは変わらない。
【なんでも……】
「精霊の森はこいつの生まれ故郷だよ」
【……!】
ぼこぼこ出てきたマー坊が代わりに応えると、マー坊は情け容赦なくわしづかみにされて床にたたきつけられた。
「今日はいつにもまして容赦ないな!?」
【ツーン】
ニーニャはかなりいじけているらしい。
しかし、どうやらマー坊はニーニャが狼狽えている理由を知っているようだ。
こうなると、話しそうな方に話を振った方が早そうだ。
「マー坊。話を聞かせてくれないか?」
「お? 知りたいか? ならとりあえず、ニーニャに叩き潰すのをやめさせてくれん?」
「別にニーニャが話してくれてもいいんだが?」
そう言ってニーニャに視線を向けると、ニーニャはものすごく渋い顔をしていたが、彼女が何も言うことはなかった。
「……これはしゃべってもいいってことか?」
ニーニャは何も言わない。しかしそれ以上、マー坊の言葉を止めようとする気配もなかった。
「では、オホン。精霊の森はニーニャの種族、ジン達も住んでる精霊の住処だ」
「そもそも精霊って何なんだよ?」
一口に精霊と言っても元の世界では色々とあった。そこのところは詳しく聞いておきたいところだった。
「精霊ってのは、あの姉ちゃんが言ってた半透明のやつらだよ。最初は見えないが、長く生きて成長するとだんだん見えるようになっていくらしい。ちなみにジンはその頂点に立つ大精霊を崇めてる種族なんだ」
「ジンも精霊なのか?」
「いや、ジンはちゃんと身体がある種族だ。だが精霊が祖先にいるらしい。だからジン達は精霊達と共に暮らすことを許されてんだよ」
「……どうやって子孫ができるんだ?」
「さぁ? 精霊は常識が通用しないからなぁ。だが、嘘でもないらしい。実際ジン達は精霊に似た不思議な力も使える」
「ああ、ひょっとしてニーニャの力もその精霊由来なのか?」
「そういうことだ。だがその中でもニーニャは特別で飛び切り強力だった」
「ふむ……」
そこまで聞くと俺にも少し心当たりがある。
俺はニーニャと出会った時、そんな映像を夢で見たことを思い出していた。
あの時見た夢の中のニーニャは少なくとも幸せそうではなかったし、故郷は捨てたというのは、他ならぬニーニャから聞いた話である。
ニーニャの態度を見れば、かなり複雑に思っていることは間違いなさそうだった。
だから俺はあえて彼女に問う。
「ニーニャはどうしたい?」
帰ってきたのは、難しい表情つきの沈黙である。
俺は返事が返ってくるまでゆっくりと待つ。
今日は答えが返ってこないかと思っているとニーニャは言った。
【……貴方が行くというのなら、行く】
俺はそんな返事を聞いて苦笑する。
なんというか、テレパシーってものは便利そうで残酷だった。
複雑な心情が、動揺ともに伝わってくる。
好きではないけど、嫌い切れてもいない。
関係ないとは考えつつも、心配なのだろう。
それならばと俺の心は決まる。
言葉にできない心のもつれがあるのなら、多少強引に引っ張ってみるのもいいだろう。
「なら行こうか。ヒーローとしては捨て置けないからな」
【……わかった】
俺が軽く言って笑って見せると、ニーニャはやはり嫌そうに頷いていた。