ニーニャの異変
【精霊の森】
「おや、お嬢さんどうかしたのかな?」
【……何でもない】
ふいっと視線そらしたニーニャは、見てわかるほど汗をかいている。
絶対何でもないことなかった。
だが聞いていいのかは微妙なところである。
しかたがないので俺達は会話に戻った。
「精霊の森ってどんなところなんですか?」
精霊なんて、ちょっと想像の翼を広げてしまいそうになるほど素敵な響きだが、いざイメージを一つに搾ろうとしても難しい。
「そうだね。透明度がまばらな人がたくさんいる、視力に自信がなくなる場所だね」
しかしイーグルの解説はやたらザックリだった。
「……絶対もっと他に説明の仕方があったでしょうに」
「いやいや、見た目の印象がまずはそんな感じなんだ。それ以外は……まぁ家とかも一応あったかな?」
「……ひょっとして今一興味なかったですか?」
まるで誉めるところが見当たらないという言い回しに感じたのだが、そういうわけでもないらしい。
イーグルは眉間にしわを寄せて俺の言葉を止めた。
「そんなことないない。興味津々だったとも。しかし彼らはオレと会話してくれなかったからね。さらっと観光して、おいしそうなものを探して、謎の集団に追っかけられて逃げ出してきただけだ」
「……そいつは災難でしたね」
そして俺に注意喚起という名のグチをこぼしに来たというのが、今回の経緯のようだった。
「そうだとも! おいしいコーヒーの一杯も飲みたくなるってものだろう? 君達も一回全員同じ格好をしたタイツ軍団と、ちょっと装飾に気合の入った変な怪人に襲われてみたらいい」
「タイツと怪人……ますます精霊像が崩れていくんですが?」
「だろうね。こっちだってそうだとも。もっとなんていうか……半透明の美男美女が沢山入り乱れている楽園的な場所を想像していたのに、タイツ軍団で全部持っていかれたとも」
「それ、どっちもすげぇ怖くないですか?」
「そうかい? 行く機会があったらじゃあ気を付けた方がいいね。半透明の美男美女についてはいたからその点はよかった」
「……」
そうかいたか半透明の美男美女。
どう反応したものかわからずに沈黙を選んだ俺の後ろで今まで黙っていたリッキー&シルナークが、彼らなりの盛り上がりを見せていた。
「ほほう……どこがどう半透明なのかとても気になるな」
「あーシルナークさんが変なことを考えてる」
「おいおいリッキー。馬鹿を言うな。精霊用の服を考えたら一山当てられるんじゃないかとかそんなことだ」
「黙りなさい君達。お客様の前ですよ」
その、秘密基地内のノリちょっと控えなさいよ。
俺はニコリと穏やかな笑みで二人を黙らせた。
「コホン……でもそうか。変なのばかりじゃないならいいんですが」
「そうだね。ちゃんと身体を持ってる人間っぽい人もいた。まぁ小規模な村って感じかな。そういえばそこの住人の見た目の印象はそこの女の子に似ていたな」
「あ、そうなんですか」
再びニーニャに視線が集まったが俺はギョッとする。
未だ棒立ちのニーニャの顔色は青白くなり、ガクガク震えていたからである。
「ニーニャどうした!」
【…………何でもない】
絶対何でもないことはない、この場にいる全員の心は一つになった。