謎のマッドサイエンティスト
「そう、ドクターダイスはマッドサイエンティストを自称する異世界人だ。問題は自称通りに行動してるってことさ」
イーグルは困ったものだと形の良い眉を潜めた。ただ俺はイーグルの口調が、妙に実感がこもっているのが気になった。
「会ったんですか?」
「ちょっとだけ。問答無調で攻撃してきたから逃げちゃった。科学者系でさ、怪しげな実験を繰り返してるって話だよ。人体実験とかね」
「うわぁ……とんでもない奴だなぁ」
「ああまったくだ。異世界に来て理性のタガが外れたのか、元々そういう輩だったのかは知らないが、周囲の評判は最悪だったよ」
なるほど、確かに例え話の一個目で人体実験が出てくる辺りとてもヤバそうな奴だ。
ああでも俺も怪しげな実験は繰り返してるななんてちょっぴり考えてしまったが、そんなことは一切出さず頷いておく。
いや、俺はそんなひどいことはしていないので。
「他の異世界人にも興味津々みたいだったからね。まぁ普通にしてれば会うことはまずないだろうと思うけど、知らないよりはいいだろう」
「なるほど。ありがとうございます……」
俺は忠告に対して頭は下げたが、どう行動するかは考えものである。
元の感性であれば危険な人物からは距離を置くべきだ。
接触したところでトラブルの種にしかならない。
しかし、非道な行いをしていると聞いた以上ヒーローを目指すものとして、放っておくのはいかがなものか?
こういう時、即「ならば止めないと」と言ってのけるのがヒーローのあるべき姿なのではないだろうかと考えてしまう。
「ちなみに、どの辺にいるとか聞いてもいいですか?」
「んん? 気になるかい?」
どこか試すように言うイーグルにその質問はいるのかとは思ったが、俺は頷いた。
「まぁ同郷……ではないと思いますけど。気にならないわけではないですかね」
「そうか。止めてくれるのなら、止めてくれた方が大助かりだよ? そうだ、ホラ、あの白い鎧のお友達なんかやってくれないかな?」
だがいきなり秘密を突かれ俺は内心動揺した。
「ど、どうでしょうね。まぁひょっとしたらやってくれるかもしれませんけど」
「それなら期待したいね。ただでさえ肩身の狭い我々がさらに白い目で見られるのは避けたいよ」
「そうですねー」
いや全くそれはその通りだ。
イーグルは人差し指を立てて言う。
「そのドクターダイスは精霊の森って場所にいた。その名の通り精霊って種族が住む森だったが、最近は彼のせいでずいぶんと荒れているんだってさ」
「精霊の森とは……これまたファンタジックな名前だなぁ」
イーグルの出した名称に俺の方では心当たりはなかった。
こっちに来て長いが、まだ精霊にはあったことはなかったはずだ。
かなり気楽にかまえていた俺だったが、その時ガシャンと何かが割れる音がして、この場にいる全員が振り返る。
すると音の先には地面に転がったケーキの乗った皿と、青い顔をしたニーニャが立っていた。