イーグルの忠告
「あっはっはっは! それは災難だったね!」
「そうなんですよ。ついてないというかなんというか」
俺は肝心なところは極力伏せて、彼女、イーグルにコーヒーを用意する。
急遽瓦礫の中から引っ張り出したテーブルと椅子という、アウトドアさながらの状況をイーグルはむしろ嬉々として受け入れたようだった。
「いやータイミングは悪かったみたいだが、面白い話は聞けたかな。空の下で飲むコーヒーというのも悪くはない」
コーヒーをおいしそうに飲むイーグルを前にして、なんだかソワソワしているのは、リッキーとシルナークの二人である。
二人は俺の肩を後ろから強めに小突いてきて、さっきからとてもうっとおしかった。
「ダイキチダイキチ、そろそろ紹介しておくれよ」
「この美しいご婦人はどなたかな?」
興味津々なのを隠そうともしない面々に仕方がないので俺はイーグルを二人に紹介した。
「彼女は……イーグルさんだ。たぶん俺と同じ異世界人だね」
俺だってイーグルのことをよく知っているわけではない。
だがそう言うとリッキーとシルナークはそろって目を見開いた。
「えっ……そうなの? 異世界人なのに普通そうじゃない?」
「うーむ。異世界人なのになぁ」
「おいお前ら、異世界人は別に変った人とイコールじゃないからね?」
「いや、サンプルが……」
「うむ。お前と……店の扉を蹴り破る謎の少女しかいないからな」
「……」
そうかツクシは何回か店に襲来してきたか。
いやそれはともかくとして、イーグルの見た目だって十分変わっているだろうに。
こいつらはマフィア衣装も、謎のクマ軍団もすべて気にならないらしい。
なんとも釈然としないわけだが、イーグルはにこやかに二人に挨拶していた。
「初めまして。ご紹介に預かったイーグルだ。君達が、ダイキチの友人かい? 楽しそうでいいじゃないか」
「……ええ、まぁ。友達? みたいなものです」
「いいじゃないか。友人は大切にした方がいい。人生を潤わせるのはいつだって良い友人だとも」
その言葉に、てへへと照れたそぶりをするリッキーとシルナークはとても純真アピールが演技臭い。
長く付き合った勘は確かだ。
これ以上友人トークを広げるのもなんだかなと思っていると、イーグルは改まった様子で仕切りなおした。
「さて面白い話も聞いたことだし。少し話があるんだがいいかな?」
「今日は、コーヒーを飲みに来たわけじゃないんですね」
「もちろんそれも重大な用事だとも。そして君と語らうことも重大な用事だ。何せ他所の世界からやって来たという自覚を持つ友人はとても貴重だからね。話ができるのも稀なことだ。顔を合わせるとだいたい血なまぐさいことにしかならない」
「そんなことあります?」
あまり心当たりはなかったのだが、イーグルの方は妙に確信をもって頷いた。
「ああ。あるとも。実はちょっと危ない異世界人を見つけてね。情報を共有しておこうと思って、今日は寄らせてもらったんだよ」
「……危ない異世界人ですか?」
俺がすぐに反応すると、イーグルは足を組み、少しだけ溜めてから続きを話し始めた。
「ああ。名前はドクターダイス。マッドサイエンティストを自称するイカレた男だ」
「……!」
俺はその名を聞いた瞬間戦慄が走った。
「……なんか、すごい胡散臭い」
「だろー? オレもそう思うよ! でもこれホントに全部自称なんだぜ?」