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壊れたお店

「……」


「……」


「……あー」


 やっちまった。


 俺は崩壊した店を眺めてため息を吐く。


 茫然と俺の横に並んでいるのは、リッキーとシルナークの二人組だった。


「一応聞きたい……何があった?」


 そう尋ねると、リッキーはハッと意識を取り戻し、ワタワタと手を動かし始める。


「いきなりドリルが暴れだしたかと思ったら店の商品を全部取り込みやがったんだ! ああ僕の店が!」


「いや、それ俺の店だからな? なるほど……やっぱりそうなるよね」


 そしてシルナークも自分の頭に手を添え、悩まし気に嘆いて首を振る。


「一瞬の事だった。トシが裏から謎のガラクタを運び込んだと思ったら、管をそこら中に伸ばし始めてな、一気に取り込んで合体、巨大化した。何ということだ、私の店が。せっかく王都のお嬢様方もスポンサーに乗り気で二号店のめども立ち始めたところだというのに」


「だから、俺の店だからな? っていうか二号店? 俺のいない間にお前ら一体何をした?」


 ちょっと目を離すとこいつら俺以上になにをしでかすかわかったものではない。


 それはともかく店は完全崩壊の危機だったが、頼もしい留守番達のおかげでひとまず騒ぎだけは収まったみたいである。


 もっとも屋根が傾いているし、そこらじゅう穴だらけがセーフと言えればの話だが。


 家の電化製品との融合で元のロボットのような外観を取り繕ったグレムリンは、今トシにバラバラのスクラップにされて、ニーニャに焼却処分されていた。


 さすが魔王もいるだけあって、対処が適切である。


 俺に気が付いた二人は無邪気に俺に手を振っていて、とても心が痛くなった。


 ニーニャとトシに手を振り返しつつ、俺は小さくため息をこぼす。


「しかしやっちまったな。大打撃なのは間違いない」


「だろうね。店も半壊。主力商品の電化製品が軒並みやられちゃったのが痛い。バッテリーは結構売りさばいたけどなぁ」


「リッキーと私の服や装備で、しばらくどうにかならんか? もう売り場の半分くらいは占拠してただろう?」


「もうすぐにでも自分たちの商品で店が回るくらい準備を整えてやがったな? まったく……俺が一体どれだけ必死にこの店を作ったと思ってんだか」


 この二人、完全に店を乗っ取る気満々である。まぁ看板作ってる時点でもう乗っ取りは完了していたに等しいが。


 頭痛を覚えて呟くと、妙に不思議そうな顔で、俺の顔を覗き込んでいるリッキーとシルナークの二人に気が付いた。


「……なんだよ?」


 尋ねると、二人は微妙に俺から視線を外して言った。


「いや、そんなに店に思い入れがあるなんて思わなかったから」


「そもそもお前、王都で店をやりたかったのか?」


「……!ハッ!」


 言われてみれば確かに。


 俺の一番の目的は店長さんではなかったはずだ、あくまで雑貨屋の店主は仮の姿。


 そして仮の姿こそ、俺の求める最も重要なものだったはずである。


 気が付けば俺は膝をついていた。


「そ、そうだな……確かにそうだ。その通りだ」


「いや、そんなのショックを受けられると困るんだけど」


「そ、そうだぞ? 順調に強くなってるみたいじゃないか」


 シルナークの言う通り、確かに強化はしているとも。


 だが肝心なところを俺はテラさん任せにしていた自分に気が付いてしまった。


「いや、しかし、俺は……一日の相当を、店の運営に使っちまってはいなかったか? 店の充実のラインナップがそれを物語っちゃいないか?」


「「ああ、それは思った」」


「だろう!」


 声をそろえ、ハッと口を押える二人の反応を見れば真実がどこにあるかは明白だ。


「俺は……楽しくなっちまっていたんだ。思っていたよりも売れる製品。ガンガン量産されるテラさん製バッテリーは順調だ。だがもっとできたはずだ! アイディアはあった! 飛行ユニットだとか、外部補助ユニットとか自爆装置とか……」


「もうよくわかんないよ?」


「自爆装置は必要なのだろうか?」


「クッ……俺としたことが、だいぶん道を見失っちまってたかもしれない」


「何か触れちゃいけないところに触れちゃったんじゃないか?」


「……いや十分すぎるほど、妙な改造が施されていると思うけどな?」


 二人の気遣いに、俺は猛烈に反省した。


「わかった……こうなったら、店は二人に任せてもいい! 協力してくれるか?」


「「おお!!」」


 ちょっと二人の歓声が本気の歓声に聞こえた気がしたが、今はスルーしよう。


「いやちょっと待て、今まさに店がぶっ壊れてしまっているんだが?」


「これ僕たちが直すの?」


 そして後のつぶやきは聞こえていないことにした。


「苦労したから未練はあるが! 君達なら見事盛り立ててくれると信じている!」


「いや、だからな?」


「ちょっと待とう」


「俺達にためらっている時間なんてない! さぁみんな! 頑張っていこう!」


 まぁ、店は瓦礫の山だし、修理した家電は軒並みガラクタだろうがきっと何とかなるはずである。


 俺達が、ぎゃぁぎゃぁと騒いでいると珍しい客がちょうどやって来たところだった。


「おやおや、これは。せっかくコーヒーをいただきに来たんだが、どうやらタイミングが悪かったみたいだね」


 声に反応して俺が振り返るとそこにはボルサリーノを被りファー付きのコートを着た男装の麗人が、大量のマフィア熊のヌイグルミと一緒に壊れた店を見上げていた。


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