大失敗
俺はスーツを脱いでマリー様を探すと、大量の氷柱に囲まれるマリー様を見つけた。
そしてその肝心のマリー様はどこか気まずそうに誰かと話しているらしい。
そしてぼんやりと聞こえてくる声に聞覚えがあって、俺は聞き耳を立てた。
「……全くあなたという人は。どういうことなんですかこれは?」
「いやな。ちょっとモンスター狩りをしようと思ったら、思ったより大ごとになってただけだ。まぁ、急いでよかったんじゃないか? もう何日か放っておいたら、もっとひどいことになってたぜこれ?」
「そうでしょうけれど。町で暴れないでくださいな。やりようはあったでしょう?」
「いや、まぁ。あのでかいのはともかく、グレムリンとの相性がなぁ」
「騎士団に話が来ていて、わたくしもいるのです。相性というのならもう少し待ってもよかったはずです。何があったかは知りませんが準備を整えてきてみればこの騒ぎ、シャレにもなっていませんわ」
「だが本来ならグレムリンくらいなら楽勝なはずだったんだ」
「この体たらくで楽勝は笑えますわね」
「ぬぐ」
話し相手はどうやらシャリオお嬢様のようである。
鎧と槍装備の完全武装であるところを見ると、どうやらグレムリン討伐の話を聞いて、準備をしてきてくれたようだった。
マリー様は先に俺に気が付いてハッとすると、視線で向こうに行くように訴えていた。
今俺が行ったら面倒なことになるようである。
俺はそっと身を隠した。
シャリオお嬢様には俺だって頭は上がらない。
「まぁいいでしょう。ずいぶん頑張って倒したようですし、ぐずぐずしている暇もありません。氷はなるべく水気を取って回収しておいてくださいまし。それとグレムリンと、金属の塊は一か所に集めて。わたくしがすべて焼却処分しますから」
「そこまでする必要あるか?」
面倒くさそうに言うマリー様だったが、シャリオお嬢様はしっかりと断言した。
「当然あります。グレムリンはどうやら機械という絡繰りを憑りついて操るらしいのです。今回の金属の固まりもまたおそらく機械なのでしょう。異世界の研究がさっそく役立ちそうで助かりましたわね」
「へぇ。お前そんなことしてたのか?」
マリー様が驚き顔でそういうと、シャリオお嬢様はどこか得意げだった。
「貴女に案内した店にも機械はありましてよ。グレムリンを一見排除したように見えても、機械に融合したグレムリンはまだ生きていて、周囲の機械を取りこんで動き出すらしいのですよ。幸い王都にはそういう製品は少ないですが。最近は少しずつ出回っています。用心しておきたいのです」
やれやれとシャリオ様はため息を吐き、転がっているガラクタを一瞥する。
するとそのガラクタは、断面がビチビチと生き物のように動いていた。
だが俺は今の話を聞いて嫌な汗が全身からあふれ出てくるのを感じていた。
「……周囲の機械を取り込む? いやおいそれはまずい!」
踵を返し、本気で走る。
これでも持久力には自信がある。店までくらいなら全力疾走で数分くらいか。
だが、たった数分が運命の分かれ道である。
目的地があるはずの場所に、ズガンと高く土煙が上がった。
「……あー」
そこはおそらく、王都で一番電化製品……つまり機械が集まっている場所だったりするのではないだろうか?
止まりそうになる足を必死に動かし、俺は走る。
今日も俺は異世界に試されていた。