目指す先はあまりにも高い
「すごいのが来たな! グレムリンだとさ!」
「なんであのザコがああなるんだ!」
「すぐ招集かけろ! 避難連絡も忘れるな!」
「これ騎士団がいるぞ! 騎士団の連絡最優先!」
喧騒の声は緊張しつつも、こういう事態への慣れを感じさせるものだった。
モンスターの襲撃は日常茶飯事である。
手に余ると思われるモンスターは城壁までおびき寄せて戦うことはある。
魔法による攻撃は高低差があるとさらに有利になる。
城壁は早々破れるものではないし、兵士も魔法使いも十分にいるからだ。
しかし今回は想定以上の敵だったようだ。
ドリルは分厚い城壁を破るのに都合がよく、グレムリンの取りついているロボットは間もなくこちらに顔を出す。
「うえぇ……ほとんどノータイムでぶっ壊すか」
「まいったな! 店長は避難しとけ! さすがにあの数は剣じゃどうにもならないぞ!」
「了解!」
「わかりましたとも!」
「コンちゃん。お前はだめだ」
「なんで! あんなのは想定外でございますよ!?」
コンちゃんが捕まった。
コンちゃんの悲鳴が遠ざかり、馬車から飛び降りたマリー様達はどんどん小さくなっていく。
俺は自分の店まで走り、馬車を止めると店の扉を蹴り開けた。
「たのもう!」
「な、なにごとだ!」
「ダイキチが乱心した!」
大層お驚いた風のシルナークとリッキーだが、こんなとこは我が店の風物詩である。
「おいおい何言ってんだ! この店の扉はよく蹴破られるから気をつけろよ! それと緊急事態だ! 外の馬車を頼む!」
そうとだけ言い残して俺は外に飛び出した。
「ちょっと急いでいかないと出番がなくなる! 急ぐぞテラさん!」
『了解。しかしこのような状況下になると、雑貨屋よりも兵士となった方が効率的かもしれません。正体を隠さなければもっと早く動けるのでは?』
「そいつはだめだ」
『なぜです? 彼らと共に戦えば、戦闘の機会は増えるのでは?』
唐突に、思ってもみなかったことを言うテラさんだが、まぁ戦う機会だけを突き詰めるのならそれも悪くないが、俺が望むのはそうじゃない。
「なぜならば……同じようにやってたんじゃ一生追いつけない、追い越せない。俺が欲しいのは戦闘の機会じゃなくって、強くなる機会だ」
パワードスーツを転送し、マフラーを巻いた俺は、新たな強さをもとめて飛び出していた。
すでに町から土煙が派手に上がっている。
あのグレムリン共、好き勝手やっているようだ。
「テラさん! あいつらは機械を操る! 警戒はしておいてくれ!」
『出来る限りは善処します』
屋根を道にして、町を駆け抜け、ロボットを見つけた俺は電光を残して、宙に飛び出す。
そして頭上からグレムリンに狙いを定めて、拳を振り下ろした。
「おおおおお!!!」
強化された拳はロボットの装甲にたやすくめり込み、骨組みを粉砕する。
地面にたたき伏されたロボットは赤いランプを明滅させて沈黙した。
「ふしゅー」
『撃破を確認』
「……ちゃんと近づいてる。あいつらに」
俺は見上げる。
天と地を繋ぐ氷の柱がそびえたつ。
中には無数のグレムリンとロボットの残骸が氷漬けになっていた。
だが今ここに至って、その光景はどこまでも遠かった。