グレムリンハザード
その後はもうめちゃくちゃだった。
雪崩のように押し寄せるロボットの群れから命からがら逃げだして、洞窟を脱出したが、当然あふれ出すロボットがいなくなるわけじゃない。
森を飛び出し街道に出ると、背後の木々が派手に蹴散らされ、宙を舞う。
俺は馬車に全力で鞭を入れたが、奴らはそのまま追ってきた。
マリー様は思った以上に増えていたグレムリンと、予想も全くしていなかったロボット群に唇を尖らせた。
「むぅ……思ったよりもでかい災害だったな。帰ったら文句を言おう!」
「その時は、俺にもひとこと言わせてください!」
「来ましたよ! 十台や二十台じゃ聞きませんよあれ!」
「グレムリンも多すぎだ。何があった?」
「……そういえば今朝雨が降ってましたよね?」
「「それか!?」」
コンちゃんの一言に俺とマリー様が声をそろえていると、 ロボット達は、今にも走る馬車に追いつこうと迫って来た。
そんな時マリー様は唸る。
「しかし、こいつはちょっと減らして置かねぇとまずいか。店長! 馬車を揺らすんじゃねぇぞ!」
「はい!?」
言っている意味が分からず聞き返すと、コンちゃんが投げ渡された。
「え? なに?!」
「預かっとけ。ちと派手にやる」
俺は何とかキャッチし、ギシギシと軋みを上げる馬車を制御することに全力を尽くしていると、巨大なエネルギーがマリー様から湧きだすような感覚があって、鳥肌が立った。
「まぁ、外までくればこっちのもんだ。雨も降ったしな」
水という水が周囲から集まってきていた。
水は集まった瞬間から無数の鎌となり、空中にずら並ぶと、一瞬で氷結する。
そうして鎌は高速で回転して、次々と飛んで行く。
「食らいやがれ!」
鎌の刃は次々グレムリンを引き裂き、ロボットは糸の切れた人形のようにバランスを崩して転倒した。
「あんなことできたんですか!? グレムリンと戦う方法あったんじゃないですか!?」
「そりゃあできねぇことはないさ。戦えねぇ相手を狙ったりはしねぇよ」
「……最初からあれやってくださいよ!」
「凍らせんのは液体操るほど得意じゃねぇんだよ」
マリーの物言いに釈然としないものを感じたが、ぐだぐだ言ってる暇すらない。
なぜならば限界を超えた全力疾走で、帰り道は思ったよりも時間がかからなかったからだ。
城壁が迫っている。
つまりは時間切れである。
「……やばいです! 間に合いません!」
「つっこめ! こういう時のための城門だ!」
「……ああくそ!」
とりあえず俺は緊急用の手旗を探した。
旗を大きく振ることで、確か門を下ろす手はずになっていたはずである。
しかしそれが見当たらない。だが俺はすぐ手元に、鮮やかな黄色い物体を見つけて一瞬考えた。
「……すまんコンちゃん。太目な自分を恨んでくれ」
「また太いって言いましたね!」
俺はガシッとコンちゃんを掴み大きく緊急時の手旗信号を送った。
「へ? ぬああああ!!!」
「ホントごめんな!」
すぐに城門の兵士が旗を振って返し、準備が始まる。
「……いきますよ!」
とにかく俺は兵士達を信じて突っ込むしかない。
手綱に力を込めて、馬にスピードアップを命じる。
俺達の馬車が城門を通過した瞬間、重い扉が下ろされた。
「よし!」
「いやまだだ! 気を抜くな!」
「そうですよ! 走って走って!」
そのまま止まらず城門を突っ切った俺達は、城門を破壊する鋼鉄の群れを目撃することになった。
カンカンと鐘がなる。
「こいつはもう腹くくってやるしかねぇな!」
警鐘の音を聞きながら俺は、マリー様の戦意に満ち溢れた顔を見上げていた。