マフラーは呪われた
「うおっす」
「おお、生きていたか。調子はどうだ?」
鉱山の仕事の帰り、ちょっとしたボーナスを片手に、俺はシルナークの服飾店を訪ねる。
今回は買い物というわけではなかったが、彼に聞きたいことがあったのだ。
「おかげさまで絶好調だよ。今朝また鉱山で魔石が出たんだ」
俺は胸を張って言うが、シルナークは一瞬こちらに視線をやって、あきれ顔だった。
「ほぅ。君はまだ鉱山にいたのか。やめておけやめておけ。ドワーフ族ならいざ知らず、人間には日雇いでも鉱山はつらかろうよ」
世間一般的に鉱山夫はドワーフ向きの仕事だと言われていた。
ドワーフ達は大抵土の魔法に適正があり、体もすさまじく頑丈で丸一日だって息を止めていられることから、事故が起こった時の生存率が極めて高い。
そんな中で人間がうろちょろしていれば、何をやっているんだと思われるだろう。
「つらいはつらい。けどまぁ昔は王都で兵隊もやってたんだ、持久力はそこそこある。それにドワーフ達はいい奴だよ」
「ふぅん……そうか。それで、君はいったいここに何をしに来た? また布でも買いに来たのか?」
だがそう尋ねられて、俺は今日来た理由を思い出し、カバンから赤くなってしまったマフラーを取り出すとシルナークに見せた。
「ああそうだった。実はこの間もらった布をマフラーにしたんだけど、ちょっと汚れちゃって、洗ってもとれないからどうしたらいいかなって」
マフラーはドラゴンの血を吸いこんでしまったらしく、赤く染まってしまった。
元々染めるつもりだったが血染めとは縁起が悪い。
問題のマフラーを差し出して見せると、シルナークは首をかしげた。
「貸してみろ」
貸せというので手渡してみる。
すると、どういうわけか表情を強張らせたシルナークは俺にいくつか質問をし始めた。
「この布を使っていて気が付いたことはあるか?」
「へ? そ、そうだなぁ。炎にはすごく強かったよ」
「それは……例えば、ドラゴンのブレスなんかにもか?」
シルナークのやけに具体的で、鋭い質問に俺の目は泳いだ。
「え、えーっと……それは? どうかなぁ?」
だがこの態度が、どうやらシルナークに確信を与えてしまったらしい。
シルナークはマフラーを畳んで俺の前に置いた。
「この色は落とせない。ドラゴンの血で呪われているからな」
「え? 呪い?」
デロデロデロデロデロ。ダイキチは呪われてしまった。なんて言ってる場合じゃない。
「そ、それって大丈夫なもんなの?」
どう聞いたところで呪いなんてもらったら大丈夫じゃなさそうなのだが、シルナークは予想外に頷いて見せた。
「たぶんな。どちらかと言えば性能は上がるだろう。それにしても君は……本当に何か面白いことをしているようだな」
「いや、呪いについてもうちょい詳しく」
「……ドラゴンの血は飲めば不老になるともいわれる。生命力を強化するのだ。まぁ適応できずにたいがいは死ぬあたりが呪いと言われる所以だろうが、今回はマフラーだ。命に別条がないんだからどうでもいいだろう? それよりもだ……」
シルナークはニヤリと笑う。
「どれ、私にも一枚かませろ。そうすれば騎士団には黙っておいてやる。白い戦士殿?」
「……」
今のやり取りだけでそこまでたどり着いてしまうとはシルナーク恐るべしである。
さて、どう言ったものか?
俺としては呪いやら正体バレやらいっぺんに言われてプチパニックだ。
ただ、迷おうにも俺のとれる選択肢は少ない。
結局俺は首を縦に振ることにした。
「……わかった。家に来てくれ。そしたら全部話すよ」
「よしよし。店が終わったら家を訪ねることにしよう」
「了解……」
いつかばれることになるとは思っていたが、こんなにも早いとは。
町の変人勢揃いかと思うと、俺はこれも運命かと案外あっさり受け入れられた。




