ここから始まった
「あぁー……今日も疲れた。ドワーフの体力は毎度思うが底なしか?」
ドワーフは人間種族とは頑丈さも桁違いで本当に力仕事のために生まれて来たんじゃないかというほどに生き生きと穴を掘る。
そんな彼らについていくのは死ぬほど大変だが、それでもだいぶん慣れてきた自分が恐ろしい。
俺が住んでいるのは街はずれだから、帰ってくるのも一苦労だ。
大きな荷物を担いで、まともに整備されてもいない道をえっちらおっちら進むのである。
親方達は鉱山街に住めと言ってくれているが、そうしない理由が俺にはあるのだ。
ようやくたどり着いた俺の住む小屋はジャンクで出来た瓦礫の山の中にあった。
通称ゴミ山は鉱山で出た不用品が捨てられている、いわゆるゴミ捨て場でそんな真っただ中に最近になってようやく完成した俺のマイホームは、最初テントもどきだったことを考えると今は立派なものだ。
木造の平屋できちんと住める。ドワーフのおっちゃん達に手伝ってもらいながらも少しずつ建てた力作である。
キッチンの他にはベッドと机と椅子くらいしかない場所は、間違いなく俺の自慢の家なのだが……それは仮の姿に過ぎない。
実はこの家には秘密の地下がある。
町に流れ着いた当初、ゴミ山の片付けを引き受けた俺が偶然見つけたそれは……俺にしてみれば希望そのものだった。
俺はいつも携帯している金属製のカギを取り出し、自分でとりつけた頑丈な錠を開ける。
扉の中は真っ暗な空間でカンテラを灯し、階段を下ってゆく。
ぼんやりとした淡い光は足元を照らしていてもどこか薄暗く、俺は慎重に歩を進めた。
そんな薄明かりだよりに歩く俺を感知して、奥に小さな光が灯る。
光の正体はディスプレイで、まさしくその場所が目的地だった。
それをのぞき込むと『こんばんは、マスター』という表記がディスプレイに浮かんでいる。
「こんばんはテラさん。さて今日もやるか……!」
俺は手探りでいつもの場所に座り込み、金属のカバーを開けた。
「……今日はいけるかなぁ……いけると良いんだけど」
もうずいぶんと続けている作業は試行錯誤の連続である。
ガチャガチャと目星をつけていた部分をいじってみて、ひとまずそれらしく配線を整えた俺はいそいそとディスプレイに向かい、俺はまた直接呼びかけた。
「テラさん、今回はちゃんと動きそう? 言われていたのと似てるパーツは見つけて来たんだけど」
声をかけるとぼんやり光ったディスプレイにテスト実行中と文字が走った。
このディスプレイは見つけた時から、俺の声に反応した。
質問をすれば回答を返すこの文字がなければ、俺はまともにこの場所を修理なんて出来なかっただろう。
だがそうは言ってもだ、手引きがあろうと万全に整備環境が整っているとはいいがたい。
毎回かなり手探りのぶっつけ本番である。
低く唸るような振動が地下全体から響いていた。
俺は固唾を飲み、緊張しながら待っていると、今まで真っ黒でしかなかった空間にチラリと光が差した。
「お……おお!! きたきたきたきた!」
ブオンと音を立てて、天井の電灯が地下を照らしてゆく。
見通しがよくなった地下室はところどころ瓦礫で埋まっているし、まともに機能しているようにはとても見えない。
たが確かにそれは高度な文明の産物だった。
「……いいね。最高だ!」
俺は心からの歓声を上げ、それを見た。
部屋の中央に置かれた「それ」は隙間だらけの鎧のようにも見える。
だがそれは、明らかにただの鎧ではない。
この世界とも、元居た俺の世界とも違う未知の場所からやって来た、高い技術で作り出されたパワードスーツ。それがこの鎧の正体だ。
スーツは俺が来るずっと前から、誰もいないこの地下で静かに目覚めの時を待っていた。
俺はここでスーツを見つけたその日から、間違いなく心に火が付いた。
うまくいくことの方が少ない日々だが、悪いことがあればいいこともある。そうじゃなくっちゃつまらない。
『メインコンピュータの起動を確認……。おめでとうございますマスター、貴方の望みにまた一つ近づきましたね』
「……おう?」
そして今日この日、俺は大いなる一歩を踏み出した。