掘削機の恐怖
耳をつんざく掘削音がそばを通れば洞窟内部を削り取る。
やたら滑らかに動く、鋼の二足歩行ロボットは、洞窟の暗闇の中で赤いライトを揺らしていた。
一瞬見た感じだと、胴体に当たるパーツから二本のトリ関節の脚。そして、無数に関節のあるドリル付きのしっぽが見えた。
腕はなく、まるで蛇の尾を持つ首のない鶏のようだが、圧倒的にメカメカしい。
「どっから紛れ込んだ! あんなの!」
ガッチョンガッチョンと重量感抜群なのに軽快な足音が追ってきているのは俺である。
すぐ横を通りすぎるだけでも体を削っていきそうな掘削機械付きしっぽのフルスイングは生きた心地がまったくしない。
「……だが幸い削っているのは土ばかり! 洞窟の中じゃなかったら死んでる!」
いや、まぁ洞窟の中だからこそ落石やら土砂崩れで死にそうではあるのだが、今生きているのは幸いである。
俺は全力で逃げながら、横穴に飛び込んだ。
「あれ!? 意外と広い!」
すると飛び込んだのは広い鍾乳洞のような空間だった。
見たことのない謎の機械が多数設置され、パイプが張り巡らされている若干秘密基地めいたところである。
「あのロボ的な物のドックか? まともに動いちゃいなさそうだが……」
いや、今はそんなことはどうでもいい。
それよりもこの広さは、致命的に逃げるところがない。
「これはまずい……」
もっと逃げやすそうなところを探す間もなく、壁を突き破ってそいつは突入してきた。
「ぬおおお!!」
「にゅおおお」
降り注ぐ岩石を右に左に避け、見事すべてをよけきった俺は横にいたタキシードの女と目があう。
必死の形相で並走するコンちゃんももちろん余裕は全然なかった。
「コンちゃん! 何やってんの!」
「逃げているんですけど!」
「逃げてないでステッキでぶっ飛ばしてくれ!」
「あんなのに無理でしょ!? そんなことより、腰の剣は飾りですか! 足止めしてくれても構いませんが!?」
「マリー様はどうしたんだ!?」
「わかるわけないでしょう!?」
涙目のコンちゃんはすでに闘志は折られているようだった。
後ろからドリルがまっすぐ突っ込んでくる。
「ヒィ!」
ドロンときわどいところで変身を解除し、かわしたコンちゃんはボールのように跳ねて俺の腕に収まった。
「ぬお! 地味に重い!」
「誰が重いですか!?」
そして地味にまた一つ、死にそうな要素が増えた気がした。
ロボットの身体から何匹かはえているグレムリン共がニタニタ笑っていて、憎たらしくって仕方がなかった。
「ん? ……いや待て。あのでっぱってるグレムリンならどうにかできないか?」
つい、あのでかさに気後れしてしまっていたが、あくまでも操っているのはあのモンスターだ。
急所がむき出しなら、叩けない道理はない。
むしろポジティブにとらえるのなら、固定されていて狙いやすいはずだ。
「できますでしょうとも! 一匹潰している間にあの鉄の塊に踏み潰されなければ!」
「あの中に入ってるのはざっと三匹くらいだたぶん! 三回くらい避けてどうにかならないか!?」
「無理です! 自分でおやりなさいな!」
コンちゃんは前足で俺をテシテシと叩きながら叫ぶ。
そんな無茶なと訴えるのは簡単だった。
でもよく考えてみれば、今更ためらうのもおかしいなと、そんなセリフが頭をよぎる。
相手は確かに巨大だが、しっぽのドリルの他に武装があるわけでもない。
「……わかった。やる」
「はい!?」
今更踏み潰しと、体当たりがいいところの土木建築機械にビビってどうする!
そう、俺は自分を叱咤する。
「ちょっと向こうに行っててくれ!」
「なんとぅ!?」
コンちゃんを思い切り振り被って、敵のいない前方に投げる。
俺はもらった剣に手をかけて、回れ右して突撃した。