グレムリンの生態
俺達三人はいったん合流して、グレムリンの潜む洞窟の内部を調べることになる。
「やはりこういうのは性に合いませんね。物事はスマートに進めるのが好ましい」
そんなことをぶつぶつ言いつつも、コンちゃんは強かった。
入って早々に出て来たグレムリンを悲鳴を上げる暇もなく討伐していく手際は鮮やかだった。
本人曰く妖怪という話だが、ステッキを一振りするだけでバカスカグレムリン達を葬っていく様は、容赦がない。
マリー様もしっかりと彼女の実力は把握しているようだった。
「すごいですねコンちゃん。変身できる事知ってたんですか?」
「当然だろう? コンちゃんは犯罪者でな。我が家で保護観察中だ。ちなみにこのことは秘密だからしゃべったらまずいことになる」
「……いいんですか? 連れてきて?」
「いいさ。そもそもそういう契約ありきで匿ってる」
「あー。ただの可愛いペットってわけでもなかったんですね」
「いや可愛いことは最重要だ。何言ってんだ。そこにいくつか細々したことがくっついていても保護する理由になる」
「……」
そういうものか? いや犯罪者とわかった上でそれをやっちゃう辺り、器が大きい。
コンちゃんはそんな話を聞いて渋い表情を作っていた。
「マリーお嬢様はそのあたり大雑把ですから、気にしても損ですよ。私は早々に諦めました」
「そもそもよくもまぁ首輪もされずに居ついてるね。いつでも逃げ出せそうだけど?」
俺はこのコンちゃんが貴族を出し抜けるほどの実力を秘めていることも知っている。
疑問に思っているとコンちゃんは言った。
「まぁそこは。お互いに利があるからとでも言いましょうか。私は正直こちらのことを知らなさ過ぎましたし、住む場所を提供していただける上、身分の保証までしてもらえるなら言うことはないかなと」
「まぁそういうことだ。元の姿がかわいくなければ家に泊めるなんて御免だが」
「……おかげでこっちの「貴族」がどれだけ危険かも理解しましたよ。さすがはこのめちゃくちゃな世界で国なんてものを維持できるだけのことはあります。対抗できるのは特別彼らの魔法に特化した技術なり、能力なりを持った化け物くらいでしょうね」
そんな中でド派手に怪盗ショーをやっていた自分を思い出したのか、ブルリと震えるコンちゃんの気持ちは分かった。
「まぁ。なるようになっただけだ。さっさとここも綺麗に片づけて夕飯は家で食べるぞ」
「……容赦ないもんなぁ。貴族の人は」
「……はい」
なんにせようまい具合に敵対せずに済んでいるのなら、それは運がいいことだろうと思う。
この何が起こるかわからない世界で、一地域とはいえ支配者として君臨しているのだから、王都の魔法の力は甘く見ていいものではない。
「まぁそういう意味じゃ此処のグレムリン達も気の毒だ」
「おいおい、それをやるのはお前らだ。容赦はするなよ? グレムリンは下手をすれば王都を滅ぼしかねないモンスターだってことを忘れんな」
「わかってますとも。モンスターは危険だ。情けをかける余裕なんてない」
例え弱そうに見えても、モンスターはモンスターだ。
そこにはそう判断されるだけの理由が存在している。
だいたいがよくわかっていないことも多く、この世界の様に何をしてくるのかわからない。
「だからこそ慎重に。準備は可能な限りしておきたいもんなんですがね」
「どうかね? スピードも大事だ。こちらが備えている間、相手が何もしていないなんてことはない」
「それもそうですけど」
俺は、それはそうかと納得する。
「早く片付けてしまいましょう。話し込んでいる暇はありませんよ?」
コンちゃんに促され、俺達は気配の出所を慎重に探る。
足跡の方向や、生物の痕跡は特に慎重に確認していた。
気になるのは、変なゴミの類が多いことだろう。
それは食事によるゴミとは別のもので、主に金属片やコードの類も見て取れた。
「……なんか嫌な感じですね。あいつら、ここに何かを運び込んでいるのか?」
「そんな話は聞いていないが。近頃は天然の大規模転移も起こっているしな。何を拾っていても不思議じゃない」
俺はたいまつを手にして先頭を歩き洞窟の中を進んだ。
特別に警戒されている様子はまだなく、気配は洞窟の奥に集中している。
だが暗い洞窟の中に光源を見つけて、俺達は慎重に奥へと進んだ。
「ウケケケケ!」
「ウギャ!ウギャ!」
ただの鳴き声のようにしか聞こえない甲高い声は明らかに、意思疎通を行っている。
そして暗闇の中にわずかな電子音が聞こえ、そちらに視線をやって、俺は叫んでいた。
「! 見られてる! くるぞ!」
その瞬間、洞窟の壁面が砕け、大穴が開いた。
何か巨大な物が壁を破壊したのだと気が付いた時には、俺達は完全に分断されていた。
「おいおい―――冗談だよな?」
俺はこの日グレムリンの新たな生態を知ることになる。
グレムリンは機械を操る。
飛び出したのは巨大なドリルだった。
ゴロゴロと回転するドリルはゆっくりと引き抜かれて壁の中に引っ込んでゆく。
俺は空いた穴から中を確認して、今のドリルが尾の部分だと知った。
鳥足型の脚部を持つ、無骨な金属の塊は赤いランプを光らせて、俺達を睨んでいるようだった。
巨大なロボットである。
そのボディには無数のグレムリン達が混じりこむ様に突き出していた。