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PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
マリーの招待編
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狩りの時間

「いたな。さてどうすっかな」


 ムムムと唸るマリーを妙に思って、俺は尋ねた。


「……マリー様の魔法なら、さして苦労するモンスターじゃないですよ?」


 そもそもが剣や槍でも十分対処可能なモンスターだ。


 肉体強化が使えない俺ですら、武器を使えば数匹なら相手できてしまえる。


 ましてマリー様の様な魔法の使い手なら、巣ごと粉砕してしまうことだってできそうだ。


 だがマリー様は妙に軽く首を横に振った。


「ああいや。グレムリンに私の魔法は相性が悪い。月の晩の他にあいつらが増える条件がもう一つある。そいつが水だ。あいつらは大量に水を浴びると増えちまう」


「え? それ、やばくないですか?」


 ずいぶん色々とわかってきているようで何よりだが、マリー様の得意魔法が水であることをしっていれば、ちょっと今の状況はシャレにもなっていない。


 だって俺達の中で一番の戦力が、迂闊に動けないなんてかなり致命的ではないだろうか?


「かなり数もいそうだ。いったん引きましょう」


 危険な時こそ安全を第一に考える俺としては、こうして数を増やしていることが分かってきた以上、もっと慎重に行くべきだと提案したが、なぜか取り合ってはもらえなかった。


「はぁ? 馬鹿言うな。ちゃんと戦力は連れてきてるだろうが」


 そう言うとマリー様はにっこりとコンちゃんを右手の手のひらに乗せ、左手で俺を指さしていた。


 マリー様はにっこりと笑ったままである。


 俺の頬はヒクリと引きつった。


「つまり……俺とコンちゃんで、あいつら全部やっつけろと?」


「せっかく普段とは違うメンツなんだ。少しやり方は変えてやりたい。いくらか武器は持ってきてるぜ? それにもちろんサポートはする。どうだ?」


「これはまたおっかない提案しますね」


 非戦闘員だと知っていての提案ならかなりめちゃくちゃなことを言う。


 だが本当に剣は持ってきているし、マリー様は冗談を好きそうでないことはなんとなくわかっていた。


「どうする? やるか? もちろん強制じゃねぇが?」


 何か狙いがあるようだが、しかしそう尋ねられると俺にだって思うところはある。


 俺はマリー様の持っていた剣を手に取って、気が付けば頷いていた。


「……いいでしょう。やりますとも」


「そう来なくっちゃな」


 マリー様の提案を承諾した瞬間、モンスターの討伐ミッションは本格的に動き始めた。




 ひとまずマリー様は今いる場所から更に後方に待機。


 俺とコンちゃんは巣穴に接近するために新たに場所を移して、風下に回り込む。


 俺の手の中で、コンちゃんはこれ見よがしにため息をついていた。


「はぁ……無茶を言うものですよ、あのお嬢様は」


「コンちゃんも可愛いだけじゃないところを見せてくれよ?」


「はいはい。よござんすよ。たまには運動しませんと、このままハムになってしまいますしね」


 コンちゃんは俺の手の中から飛び上がろうとするが失敗して丸い体が地面でコロンと一回転。


 ドロンとコンちゃんから煙が上がり、タキシードに身を包んだスラっとした美女が現れた。


 狐の仮面にステッキを手に持った怪盗スタイルはお気に入りなのか、あの時の怪盗フォックスの姿がそこにはあった。


 俺は思わずその姿をマジマジ眺めると、目ざとくコンちゃんは視線に気が付いた。


「……」


「おやおや、殿方は見蕩れてしまいますか? 無理もありませんけれど」


「いや……本体の体型は反映されないって、ある意味美容には無敵の能力だなって」


「……やかましいです。さぁやるのならやりますよ!」


「ああ、はいはい」


 少々騒いでしまったし、やるなら急いだほうがいい。


 俺は全感覚を研ぎ澄ませ、周囲の気配をより正確に測った。


 全部で十匹。洞窟らしき穴倉の前でうろうろしていて、おそらくは見張りのようだ。


 仙術を学んでから、気配の察知は昔よりもかなり正確になっている。


 気合を入れれば健康状態すらぼんやりと理解できた。


「十匹で、三匹身を隠してる。離れているやつから順番に。指示を出すから頼めるか?」


「へぇ、気配を探るのがうまいのですね。よい狩人になれそうです」


「そっちも狐を自称するだけのことはある」


 俺の言うことが嘘ではないとわかっているらしいコンちゃんはクスリと笑って俺の肩をポンポンと手のひらでたたいた。


「ああ、でも作戦から察するに、貴方は私のことを少々舐めすぎの様です」


「どうだろうか?」


「はぁい。順番になんてまどろっこしい。ではご披露しましょうか」


 俺の目の前でふわりと浮かび上がったコンちゃんは、いきなり空中で掻き消える。


 そしてグレムリン達の完全な死角に突然出現して、首をステッキで一薙ぎした。


 それを十回繰り返すのに、何秒もかからない。


 ビッと一振りして血をステッキから振り払えば、掃討は完了していた。


「……うお!」


「まぁこんなところでございますよ。ささ、日が暮れる前に終わらせてしまいましょう。ゴハンの時間になってしまいます」


 琥珀色の瞳で細まる縦に割れた瞳孔から本能がのぞいた気がしたが、セリフからは野生の失われていくのが感じられるのを愛嬌と表現していいのだろうか?


 まぁマリーは目を輝かせて喜んでいるし、いいということにしておこう。


「これなら、何とかなるか?」


 俺はヒュッとナイフを投擲して、入り口から新たに現れたグレムリンを一匹仕留める。


 これでよし。もう少し不意打ちも続けられそうだった。


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