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PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
マリーの招待編
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マリーさんのお食事会

「いいですか? 私がただペットに甘んじているだけだと思われては困ります。ええそうですとも」


「よーしよしよーし生意気なところも可愛いなぁ!」


 わしゃわしゃと強引にマリー様がフォックス改めコンちゃんの腹をなでる。


「きゅーん!」


 するとコンちゃんは甘えた声を出して、手を離すと正気に戻った。


「……という演技なのですよ! 愚かですね!」


「ほーらコンちゃん! おやつですよー」


 更にマリー様はジャーキーを取り出して見せると、短い手足を伸ばして取りにかかった。


「きゅーん! おやつ! おやつ欲しいです!」


「よしよしいい子だねーコンちゃんはー」


 ああ、なんだかすっかり牙をもがれてしまって。


 かつて王都を駆け抜けていた猛獣は、いなくなってしまったようだった。


「よし、店長。こいつを抱く権利をやろう。そして食事の続きだ」


 ひょいと摘まみ上げられたコンちゃんはもはや抵抗する素振りすら見せず俺の腕の中に納まった。


 そして周囲が動き出し、本格的な食事会となった。


 大きなテーブルの上座に座るマリー様は、いつもの荒々しさが感じられない洗練されたテーブルマナーで大きなステーキを食べている。


 俺は同じく出された肉汁滴るステーキを目の前に、コンちゃんを抱っこしたまま、この場違いな空気になじめずにいた。


 ただそれだけだったが……何も言わない俺にコンちゃんが先に話しかけて来た。


「……なんですかその目は?」


「いや? なんでもないけど」


「……言いたいことがあったら言ってもいいですよ? ほら言ってみなさいな? タヌキですか? 

タヌキですわよね? 丸々太ったタヌキだと笑っても構いませんわよ?」


「いや、そんなに卑屈にならんでも。そもそも狐のようなものがタヌキのようなものになっても、大差ないかなって思ってる」


「なんですかそれ!?」


 いや、だってそんな絵に描いたようなデフォエルメされた狐を生物的に狐と認めてしまったら、本当の狐に顔向けできない。


 ぷんすかと顔を真っ赤にして怒っているコンちゃんだが、そういうとこがリアル狐じゃないとかはもはや言わなかった。


 マリー様の食事がひと段落するのを待って、俺は彼女に礼を口にした。


「本日はお風呂まで貸していただき本当にありがとうございます」


「気にするなって言っただろうが。ほんのきまぐれだ。店長とは前々から話したいと思っていたんだぜ?」


「そんなんですか?」


 俺が思い当たることと言えば、新たなペット用品について語り合いたかったとか、その手の事だと思ったのだが、マリー様は愉快そうに笑い、真っ赤なワインの入ったワイングラス越しに俺を見た。


「ただ、噂の勇者の付き人だと知った今は、ちとがっかりな気はするがね」


「……ああ」


 俺は何とも自分でも微妙だと思う笑みを張り付けた。


 ふむ、遅かれ早かれ耳に入ったことではあるが、なんとも微妙な気分だった。


 マリー様はワインを揺らしながら、続けた。


「私も魔王ってのがどれだけ厄介な相手だったかは知っているつもりだ。だから戦って生還するだけのことがどれだけ難しいかはわかっている。何の力もなくそれをやってのけたというのなら十分偉業だよ」


 マリー様はごく普通に賞賛と取れる言葉をくれる。


「ありがとうございます……」


 俺はごく普通に礼を言ったつもりだったが、どうにも内心を見透かされてしまったようだった。


「お? その顔は不満がありそうだな。それだけじゃ満足できないってか?」


「いえ、そんなことはありませんよ?」


「いや、まぁわかるよ。私にだって不満はある。私たちの世代は戦いにはまともに参加できなかった世代だからな。長年訓練を続けて、いざ魔王と戦いにってタイミングで全部なしだ。正直に言えばうらやましくもある」


「それは、どう答えたものか……」


 シャリオお嬢様やマリーお嬢様は、貴族の魔法使いが通う学園を卒業したばかりだと聞いていた。


 魔法使いは国の要であるが、魔王の大乱に参加し損ねたのだとしたら、口惜しく思っていても仕方がない。


 魔法使いは戦うための存在で、敵を倒してこそその価値を証明できる貴族ならではの視点である。


 俺にしてみれば、泥臭いばかりで華々しさなんて欠片もなかったが、それは俺の感想だ。


 マリー様は俺を値踏みするように見ていた。


 それはいつもの雑貨屋店主と向き合っている時の物ではなかった。


 マリー様はワイングラスのワインをボコりと塊にして、てシャボン玉のようにそれを俺の前に投げ放つ。


 ふわふわ漂ってきた水球はペーパーナイフのような剣に形を変えて俺に突きつけられた。


「本当なら、手合わせをと行きたいとこなんだが、魔法がまったく使えない相手に模擬戦ってのも酷な話か」


 その後剣はパッと形を変えて、レンズのようになってマリー様の顔を拡大してみせた。


「ええ、まぁ無理ですね」


 俺がそう答えると水球のワインは、俺のグラスに収まり、マリー様はにこやかに笑った。


「なら今度私の狩りに付き合ってくれ、それで今回のことは見なかったことにしようじゃねぇか」


 ありがたい申し出である。


 膝の上のコンちゃんはテシテシと俺の膝をフミフミして遊んでいた。


 俺はいただいたワインを恐々いただきながら、どうしたものかと頭をひねった。


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