橋の下のダイキチ
「たのもう!」
ドバンと裏口から店内に突入する。
するとそこにはやたらギラギラと装飾過多なリッキーと、上質な生地を使ったスーツを身に着けたシルナークがこちらを見ていた。
彼らはオレに気が付くと、まずはリッキーがゆっくりと腕を組む。
それから、向こうはやたら強気に出てきた。
「おやぁ? これはこれは元店長さんじゃないか。今頃ノコノコとどうしたのかね? 人に店を押し付けて、ずいぶん余裕の出勤じゃないか」
口調まで変わり果てたリッキーだが、言っていることはズドンと俺の胸に刺さった。
「うっ……いや、遅れたのはすまんかったが」
たじろぐ俺に対してシルナークはハンと鼻で笑い、俺に追い打ちをかける。
「いやいや、かまわんとも。こうして我々に店を提供してくれたおかげで、大繁盛だ。笑いが止まらんとはこのことだぞ?」
「い、いや別に提供したわけでは……」
「ほう? というと、本当に手伝わせるだけのつもりで、我々に丸投げしたと? 割に合わんなぁ。こちらも予定というモノがあるのだからなぁ」
非がこちらにあるのは間違いなく、力強く同意するリッキーはあり得ないと過剰なジャスチャーで首を振る。
「全くだね。ちょっと無責任がすぎるのではないかな?」
「ぬぬぬ……いや俺も事故でな?」
ささやかな抵抗など、もはや意味がなかった。
言い訳するなと鋭い視線で黙らされ、二人から優しく肩を叩かれる。
「とにかく……まぁ元店長はしばらく休んでいるといいよ」
「そうだとも。まぁ我々の手腕で、店は大きくしてやるとも! もっとも、戻ったところで元店長の居場所があるかどうかは……わからないがな!」
フフフと邪悪に微笑むドワーフとエルフのコンビの猛攻に、俺はヨロリとよろめく。
そりゃあ、全部お任せして丸投げしちゃう結果になっちゃったけども。
考えてみればそのまま二週間以上も経過していれば怒られるのもわかるけども……。
「……ぐふ!」
結果、俺は反論の余地もなく逃げ出した。
泣いちゃいない。男の子だもの。
ただ、こうも堂々と任せておけと言われたら、返せと言える度胸は俺にはなかった。
ダイキチが走りさった後、ひょこりニーニャとトシは顔を出す。
そして非難めいた顔で、リッキーとシルナークを見ていた。
【かわいそうなのでは?】
「ダイキチ走って行った」
だがリッキーとシルナークはひるんだ様子もなく、逆に彼らに言った。
「まぁちょっとくらい言ってやればいいんだよ君達もさ」
「そうだとも。心配をかけるだけかけて、当然と思われても困るだろう?」
むしろ当然だと言われて、ニーニャとトシは顔を見合わせる。
実際いつまでも帰ってこない店長を心配していたのも確かなことで、結局二人とももう一度帰ってくるまで黙って見ていることにした。
俺は汚れた格好のまま、いつの間にか橋の下に座っていた。
子供が反応し、見ちゃいけません!という声が妙に耳に残った。
「……テラさん。俺は一体何をやってるんだろうか?」
ふと我に返ってこぼすとテラさんはいつもの淡々とした声で言った。
『理解不能です』
「なー、意味わからんよなー」
どうやら俺は疲れのあまり少々混乱してしまったみたいである。
さて飛び出してきてしまった手前、どうしたものかと思っていると、俺を誰かがのぞき込む。
「なんだ、お前店長か? こんなところで何をしてんだ?」
青い髪の女性が心底不思議そうな顔をして俺を見ていた。
「……」
マリーお嬢様に手を差し伸べられた俺は、思わず赤面した。