鉱山の噂話
「うおおおお!」
めっちゃ掘る。
「ぬおおおお!」
めっちゃ運ぶ。
「ふんぬぅぅぅ!」
めっちゃ探す。
俺の鉱山バイトは今日も絶好調だ。
見よ! 日々の肉体労働で鍛え上げたこの筋肉を!
肩を並べたドワーフ達に引けを取らずに動ける俺は、みんなの視線を独り占めである。
「こらダイキチ! むやみやたらと叫ぶんじゃねぇ!」
「すんません!」
……ダン親方に怒られてしまった。
まぁ、気合いというのは入れ過ぎると空回りするものだ、何事も塩梅が大事という事か。
ただ気合は伝わったようで、鉱山夫のドワーフのおっちゃんは楽しげに話しかけてきた。
「おう、上機嫌だなダイキチ。なんかあったのか?」
「あったさー。ちょっと臨時収入があってさー」
「ほんとか? そいつは景気がいいな! よしおごれ!」
「いいぜー。ドラゴンもやっつけられたし、今日も平和に乾杯だ!」
「ああそうらしいな! 騎士団が倒したんだって? ここいらも最近は物騒な噂が多いぜ、油断は禁物さ」
てっきりドラゴンもいなくなって平和を取り戻したとばかり思っていたのだが、噂好きのドワーフのワキさんは、たしなめる様に言った。
「んん? なにそれ? 噂は好きだよ?」
ただ、話したくって仕方がなさそうなので続きを促すと、ワキさんの目は輝いた。
「そうか! なら……最近妙な鎧を着たモンスターが出るって話は知ってるか?」
「いや……知らない。なんだそれ?」
こちらの反応から知らないと確信したワキさんは喜んで続きを話し始めた。
「お! 知らんか! なら教えてやろう! ここのところ目撃されてるモンスターだって話だ。一見するとオークのようだが、物々しい鎧を着ていて、白い煙を吐くらしい」
「白い煙? 鎧ではなく?」
「煙だったと思うぞ。恐ろしく強くて冒険者が何人かやられたって話だ。酒飲み友達の冒険者がいっとったぞ」
オークというのは猪のような顔を持つ人型のモンスターだったはずだ。
その謎のオークは、どうもこの近辺で多数出没していて、被害を出しているようだ。
俺は何とももやもやした微妙な気分でワキさんに言った。
「はー。なんかドラゴンといい。オークといいこのあたりって物騒だったんだなぁ」
「本当になぁ。物騒な話だよ。妙なことが起こんなきゃいいがなぁ」
つい噂話に花を咲かせてしまったが、とうとうダン親方から雷が落ちる。
「お前ら! 無駄口たたいてないで手を動かせ!」
「「へい! 親方!」」
またもや失敗。気をつけねば。
俺はツルハシを振る作業に没頭する。
そしてカキンといつもと違う感触に行き当たった。
「お?」
その周辺を今度は丁寧に掘り進め、ぼんやりと輝く鉱石を見つける。
俺は確信を込めて叫んでいた。
「おおお! また魔石だ今度はもっと大きいぞ! 親方!」
「おお出たか! よくやったな!」
沸き立つドワーフ達に交じって俺も大いに喜ぶ。
ちょっとした好景気の兆しに、俺の持つツルハシにも一層力がこもった。