地に足が付く、そんな感じ
俺達は真っ暗なところにいた。
聖都が落ちてくるとわかったあの時俺達は瓦礫もろとも黄金の何かに包み込まれた。
それからはもうシャッフルである。
グルんぐるんと暗闇の中振り回されて、ようやく静かになった。
俺は無理やり、壁らしき場所を力でこじ開けると、それは黄金の箱のようなものだった。
「……一体どうなったんだ?」
俺はしかし、そこで完全に墜落した聖都を見て驚きの声を上げた。
「うお! 聖都墜落してたのか!」
「ダイキチさん! ダイキチさん!」
一緒に箱に収まっていたベルジュ君が外に出て叫ぶ。
「お黙りなさい! ベルジュ君! その名は呼ばない約束だぞ?」
「そ、そうでしたね! これは奇跡ですよ! 湖の奇跡です!」
ベルジュ君はさっきの興奮が冷めていないのか、顔を上気させ俺の手を強く握る。
そして、彼の背には聖女様が眠っていた。
「それで、聖女様は?」
「……まだ、目を覚まさないのであります。でも……私がお守りするでありますよ」
「……そっか。そうだな。せっかく助けたんだもんな」
「はい! 今度は私が聖女様をお助けして見せるのであります!」
全てを知った今、もうベルジュ君の決意は揺るがないようだ。
俺はグッと親指を立てた。
その時うにょんと、俺達の側の空間が歪み、見覚えのある男と女が姿を現す。
それは三聖騎士のクラウとククリだった。
「まだいたの? 貴方」
「のんきにうろうろしている暇はないだろう、お前たちは」
「まぁね。すぐに消えるさ」
俺が肩をすくめると、クラウは口元をわずかに歪ませ笑っていた。
「そうか。お前の仲間はこの聖都の崩壊を食い止めるのに尽力した」
「ああ、彼らは優秀だからな」
ああ、そうか。あの高さから地面に落下して瓦礫になっていないのはそういうことか。
あいつらが本気を出せば不可能なことなんてないんじゃないかなって感じである。
「まぁ崩壊の原因も君達なわけだが」
「全くだ。違いない。それで? 彼らはどこに行ったんだ?」
「ククリが帰るべき場所に送り届けた」
「それは、至れり尽くせりだ」
「今後聖都は復旧活動に全力を尽くすことになる。今回の騒ぎは聖女様の死亡による湖の暴走ということになるだろう」
「! そ、それは!」
ベルジュが驚いて声を荒げると、クラウは彼を振り向いた。
「聖女様の状態は知っての通りだ。彼女の影響力は聖剣を失ったとして大きい。今の姿を民たちに見せるべきではない」
「……!」
ベルジュ君は考え込み、ゆっくりと頷いた。
そして、ベルジュ君は尋ねる。
「一つ教えてください……なぜ私達は聖女様の聖剣を砕くことができたのでしょうか?」
この質問はクラウも予想していなかったのか、目を見開いて少しだけ考えるそぶりを見せる。
そしてクラウはとても微妙な表情を浮かべていた。
「さて、なぜだろうな。本来の常識であれば砕くことなど出来ない。しかし聖剣は私達たちの心そのものだ。聖女様を助けたいというお前の心に湖が応え、お前の覚醒を導いた……おそらくはそういうことなのだろう」
「!」
「ベルジュ。お前には済まないと思っている。だがこれからお前は聖女様を伴って聖都の外に出てもらう。隠遁先はこちらで用意する」
淡々とそう説明するクラウに、ベルジュ君は力強く返事を返していた。
「……はい! 心して聖女様をお守りいたします」
「……聖女様を頼む」
クラウはベルジュ君に頭を下げた。
ベルジュ君は慌てるが、あえて何か言うこともない。
そして頭を上げたクラウは俺を見る。
「君は早く出て行ってもらえると助かる。移動に手は必要か?」
そう言ったクラウに、俺はヘルメットの下でにやりと笑い、いいやと首を振る。
「現れる時も去る時も唐突にがヒーローの流儀だ。送り迎えはいらないよ」
「……そうか。ではさらばだ」
「じゃあね。世話になったわ」
クラウとククリは軽く言葉を残し、出て来た時と同じようにぐにゃりと歪んだ空間を通って姿を消した。
では俺も有言実行して、迅速に消えるとしよう。
「テラさん。撤退しようか」
『了解』
目にもとまらぬ速さを目指して、俺は飛ぶ。
ベルジュ君は俺達が見えなくなるまでいつまでも手を振り続けていた。
「で……ポータルまでやって来たわけだけれど……」
俺は、帰還の唯一の手段である地下の転移ポータルへとやって来たわけだが、そこで絶望して立ち尽くしていた。
理由は、すぐにテラさんが太鼓判を押してくる。
『ポータル、機能を完全に停止しています。修復は困難です』
「……どうしよう! ここどこ!」
俺は叫ぶ。
完全にバラバラに崩壊した転移ポータルはどうやら瓦礫か何かの当たり所が悪かったようだった。
かっこよく別れてしまった手前、今更出て行けないんですけど!
俺は、どうやら今、試されているらしかった。