その頃、地上では
床が抜け一緒に落ちたメンツを何とか回収したニーニャだったが、結局雲を抜けて地表まで降りることになった。
空にはそれこそ、島のように大きな聖都が浮かんでいる。上から雲越しに地面を見下ろした光景も圧巻だったが、地面から浮かんでいる島を見上げるのもまた不思議な光景だった。
今落ちて来た地下部分から大きく亀裂の入った聖都は、城のような人工物が大きく露出していて、破壊の痕跡はまだ広がりそうである。
そこでは白い戦士が聖女を止めるために戦っていた。
巨大な水の塊が霧散して、何らかの決着がついたことが分かると、ニーニャは胸をなでおろした。
一応助けた聖都の三聖騎士という面々は、すでに自分達の能力を使い、聖都に舞い戻っている頃だろう。
何が起こってもおかしくない聖都の住人を避難させているはずだった。
ニーニャ達一行は事情があってこの地表に残っているのだが、一緒に落ちてきた勇者ツクシはウズウズと身もだえしながらやはり空に浮かぶ聖都を眺めていた。
「なぁ空飛ぶか! とんじゃダメか?」
まったく思い付きだろうが、彼女が言うと、本当にできそうで嫌である。
しかしそこは抜きにしても、シャリオお嬢様に止められていた。
「飛んで何をするつもりです? 聖都の人間の避難誘導はすでにあの国の者達がやっています。それに今から言っても無駄です」
確かに今から飛んで行ったところでやることはなさそうだとニーニャは思った。
「でも、このまま見てるだけなんて、勇者っぽくないぞ!」
フンと鼻息荒く腕を上下させていたツクシは力説するが、シャリオお嬢様は首を横に振った。
「封印からの解放が当初の目的だったのでしょう? ベルジュという少女との約束を果たしただけでもよしとしておくべきなのでは?」
だが真顔でシャリオお嬢様がそう言うと、ツクシは首を傾げた。
「何言ってるんだ? ベルジュは男の子だぞ?」
「はい? 冗談言わないでくださいな。あんなかわいい男の子がいるわけがありません」
「……お、おう? そうなのか?」
ツクシが押されるほど断言したシャリオお嬢様はそう信じて疑っていないようだった。
「とにかく、我々の役目はもう終わりです。それよりも……そろそろあの大きな友達をどうにかする方法を考えるべきではなくって?」
そう指摘され、ニーニャとツクシは困り顔で顔を見合わせた。
そうなのだ、地上に残った理由はまさに、彼をこのまま放っておくことができなかったからである。
シャリオお嬢様は、空高くから落下して地面にめり込んでいるトシを眺めて、ため息を吐いた。
トシは知り合いであるという旨の話はすでにしてある。
ダイキチ店長の話では、時間がくれば元に戻るという話だが、いまだに戻る気配はなかった。
重かったからか、高すぎたからか、落下したトシは地表を粉砕し体が丸ごと埋まっていた。
でもトシは、いまだ元気だった。
「グォアアアア!!」
ドドンとまた地面が揺れる。
地割れがそこら中に走り回って、地面が一段隆起したから、もうそろそろ出てくるかもしれない。
「あれは……どういう生き物ですの? なんだか……聖女より、よほど脅威を感じるのですが?」
地面が噴火するようなでたらめな光景にドン引きのシャリオお嬢様に、ニーニャとツクシは慌て出す。
【そんなことはないです。トシはとってもいい子です】
「そうだぞ! すごくおとなしい! シャリオの方が強いぞきっと!」
「……とてもそうは思えないのですが?」
その時、トシは大きなエネルギー弾を放って、上空の雲に大穴を開けていた。
【今ので……相当疲れたはず】
「そうだぞ! ビームくらい僕だって出せる!」
「まぁ、そこまでかばうのならよろしいですけれど……」
心底納得していないシャリオお嬢様がとりあえず引き下がってくれたのは、トシと同等かそれ以上の問題が頭上から落ちて来ているからだった。
「……しかしどうしたものでしょうか? 聖都の方々の避難はあの転移能力者がいれば何とかなるとしてです……聖都はこのままでは落ちますわよね?」
そうなのだ。
聖女は止められたはずなのに、聖都の落下はまだ止まっていない。
聖都自体がすでに傾き、緩やかではあるがそれなりのスピードで落下し続けていた。
ツクシは腕を組み、難しい顔で聖都を睨む。
「ううーん。さすがのロボも止めるまでは無理か?」
「あの方の責任ではありません! ええ、落ちたら落ちたでそれは運命というモノですわ!」
そしてやけに力強く断言するシャリオお嬢様である。
聖都は立派な都市だった。
それが丸ごと落ちてくるのだとしたら、白い戦士に物理的のどうにかする力はなさそうだとニーニャも思った。
ダイキチ店長はすごい人だ。しかしやはりできないことはあるのである。
その時、ハイっとツクシが手を上げる。
「持ち上げてみたらどうだ?」
「無茶言わないでくださいまし。いや……出来そうで嫌ですわね?」
シャリオお嬢様はあきれ声だったが、やはりツクシも自分でやることは否定する。
「いや、僕じゃなくてな?」
ジト目のシャリオお嬢様にツクシはにっこり笑いかけると、再び大地から上がった土煙を指さした。
「トシならいけそうじゃないか?」