救出
「……!」
「……!」
今まさに自分の拳で砕いた聖剣の欠片が飛び散るのを俺達は驚愕して、目で追っていた。
折れるはずのないものが折れた。
極限の集中力でどこかゆっくりと流れていた時間は終わり、俺は弾き飛ばされた。
ベルジュ君は、興奮の冷めやらない声で、俺の背中で騒いでいた。
「ダイキチさん! 身体が光ってるであります!」
「その名を叫ぶな! え? ナニコレ! 最高だな!」
「……ちょっと怖いような?」
「そんなことないだろう」
「いや、でもそんなことより! 聖女様は!」
俺が光っていることはひとまず置いておかれて、その結果を確認した。
周囲の水パッと掻き消え、空に浮かぶ大量の瓦礫があるばかりである。
そして俺達と同じように今の衝撃で弾き飛ばされた聖女様は意識を失って、大きな瓦礫に引っかかっていた。
瓦礫には、さらに巨大な瓦礫が引き合うように接近中で、俺達は血相を変えた。
「おいおい! 潰されるぞ、アレ!」
「急いで! 全速力です!」
「わかってる!」
だがベルジュ君が大慌てで叫ぶと俺の体の光は増して、急激に加速した。
「……これ、なんか浮いてないか?」
「どうでもいいからもっと速く!」
「さらっと流していいことなんだろうか!」
マフラーをなびかせて、俺は黄金色の閃光となって真っすぐ瓦礫に向かうが間に合いそうにない。
その時俺は直感に従って、マフラーとベルジュ君を掴んだ。
「仕方がない……先に助けろ! ベルジュ君!」
「ええ!?」
肯定とも驚きともとれる悲鳴にかまわず、俺は思い切りベルジュ君を投擲した。
「ああああ!」
まっすぐベルジュ君は聖女様めがけて飛んで行く。
そして俺は聖女様に迫る巨大な瓦礫の方に狙いを定めた。
なんだかよくわからないが、光っている今ならやれそうな気がする。
思い切りぶちかましてやろうと思っていたそんな時、テラさんの警告が耳に届く。
『謎の力場、消失します』
「は?」
いまさらそんなこと言われても、後は飛んで行くだけだった。
だが、もうやることは決まっている。
俺は加速はそのままに、キックを瓦礫に叩き込む。
ズドンと派手な音がして俺のキックは一息に瓦礫のど真ん中を貫き、粉砕した。
「ヌググググ!」
だがその先には何もない。張り巡らされている糸も、瓦礫もすり抜けて宙に放り出される。
俺はマフラーを伸ばすが、微妙なところで届きそうにない。
「……! ダメか!」
これはもう地面まで落ちて、助かるかどうかは運任せしかないかと思っていると、マフラーの先をがっちりと掴んだのはベルジュ君だった。
「ダイ……白い人! 大丈夫ですか!」
そう叫んだベルジュ君の腕の中には、しっかりと聖女様が抱きかかえられていた。
「……ぬぉおお……そっちも大丈夫なようで何よりだ」
「なんとか助かったであります! 聖女様も!」
ベルジュ君は頬を紅潮させて涙声だった。
ああ確かに、一度は取りこぼしかけたモノは、俺達の手の中にある。
「ああ、やったな! これで一件落着だ!」
厳密に言うのなら、たぶん大変なのはここからだろう。
達成されたのは、最初のベルジュ君の願い通り、聖女様が封印から解き放たれた、そのことだけだ。
これから聖女様が聖女様をやっていけるのかが疑問だし、ベルジュ君は聖都を騒がせた首謀者だ。
でもこの形すら、諦めていたのだから、上出来の部類なのではないだろうか?
とにかくこれで、聖女様も助かり、聖都がぶっ壊されることもなくなり、めでたしめでたしに……。
「……ん?」
聖女様から切り離したことで湖への干渉が止まって、聖都は元の浮島に戻るとばかり思っていたが、これはどう見ても―――。
「なんか……まだ落ちてないか?」
『現在聖都の高度は下がり続けているようです』
「……マジでか」
自由落下というわけではないが、間違いなく聖都は落下してきている。
俺は背筋が冷たくなるのを感じていた。