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聖女様にアタック

 浮かんだ瓦礫を足場に俺は空を駆け上がる。


 確かに足場に出来るほど、瓦礫は固定されているのだが理屈はサッパリ理解不能だった。


「すげぇ不安になるな……テラさん大丈夫か? この足場?」


『断言できません。「湖」と呼ばれていたこの液体は、聖都中にはりめぐらされているようです。聖都を浮遊させているのも「湖」の様ですが、現在不安定になっているのだと考えられます』


「下手すりゃ都市がまるごと落ちるか。だがなぜ今すぐそうしないんだ?」


 聖都を壊すことだけが目的なら、早々にそうしているはずだ。


 聖女様が完全に正気を失っているのなら、衝動的に壊す方に動いてもおかしくはない。


 だがテラさんは嫌なことを言う。


『おそらくそれが最終目標ではないからかと』


「最終目標じゃない……いやな予感しかしないね」


『本人が言っている通り世界の崩壊が目的でしょう』


 はっきり言っちゃったテラさんの言葉に俺はため息を吐いた。


「実際、そんなことができるのか?」


『おそらく不可能です。しかし聖都もろともこのあたり一帯を更地にすることは可能でしょう』


 テラさんの見立てでは、聖女様の力ではもう一度世界を崩壊させるようなことは不可能とのことだが、結局巻き込まれたら、俺達は間違いなく死にそうだった。


「……俺達にしてみたら大した違いはないか」


 なんともはや、思ったより敵が強力で首の突っ込みがいがある話だ。


 だとすれば精々あがいてみせるとしよう。


 ちょうど射程距離に収めた聖女様は、俺を一瞥することもなかった。


「じゃあ小手調べだ、新武器行くぞ!」


『連射モード。行きます』


 両掌に電光が収束して、テニスボール大の球になる。


 俺は出来上がったエネルギーボールを、次々に投げ放った。


 狙いは正確である。


 聖女様に向けて、まっすぐ飛んで行くエネルギーボールは、当たれば全身がマヒして、意識を飛ばす対人間用の武装だ。


 数撃って、網目を通し、聖女様狙う。


 エネルギーボールを景気よくばらまいてみると、なんとも言えない快感があった。


「くぅ~~~。なんだこれ! すげぇ気持ちがいいな!」


『理解不能です』


「まぁこっちの話だよ!」


 しかし攻撃すればさすがに相手も反応した。


 聖女様の視線がこちらを向く。


「私に触れるな!」


 それ自体はゆっくりと緩慢なはずだが、周囲の文字通り水の防御網の動きは神速だった。


 抜けていくはずの隙間をすぐさま新たな水の糸で埋められる。


 本来水くらいなら問題にもならないはずだが、俺のエネルギーボールは聖女を守る網に触れると、一瞬で消滅した。


「なんだあれ!」


『エネルギーを吸収されたようです』


「エネルギーを吸収? そんなんもあるのか!」


 聞いていない能力に驚いている暇もなく、聖女様は俺に向かって聖剣を一振りする。


 あまりにも投げやりだったが、恐ろしいスピードで刃が伸び、俺は危ういところで、空中に足場を作り軌道を変えて、刃を避けた。


 間近を通りすぎた聖剣の刀身はバチバチと紫電を帯びていて、ヘルメットに一瞬ノイズが走った。


「うおっと!」


 宙返りし、追撃に神経を裂いていたが、聖女様は待ちに入った俺に攻撃しては来なかった。


「……どういうことだ?」


『不明です』


 今のは完全にバランスを崩していたはずである。仕留めるつもりがあるのならそうするべきだ。


 俺はどうにも違和感があった。


 こうして実際攻撃をしてみると、聖女様は正気を失っている割に、動き自体は正確だ。


 こちらの動きに合わせて対応してくる反撃は、衝動的というよりもむしろ、自動的にそうしているようにも感じる。


 俺はいったん攻撃をやめて落下し、元のベルジュ君がいる瓦礫に戻って来た。


 追撃は来ない。


 聖女様は自らの力を溜めるように聖剣に集中し始めた。


「ベルジュ君。一つ確認したいことがあるがいいか?」


「……はい」


「聖女様が誰かに操られている可能性はないか? 例えばあの湖とかに?」


「……え?」


「あれは本当に聖女様なのか? 何か、心当たりはないか?」


 俺の質問は、ベルジュ君にとって予想外の物だったらしい。


 心当たりもないのか、ベルジュ君の言葉にはあまり力強さが感じられなかった。


「いえ……湖は純粋な力のはず。聖女様を操るような意識はないはず……です」


「そうか、違うか……」


 まぁ知識がないなら確かめる方法はない。


 ならばと、先ほど電撃が吸収された件についても聞いておこうかと思った俺だが、ベルジュ君の顔色が青く、呼吸も荒くなっていることに気が付いた。


「どうしたベルジュ君? なんか体調悪そうだけど?」


「なんだか急に体が重くなって……」


「疲れが出たか?」


 それも無理はないのだが、さっきまでは此処までではなかったはずだ。


 だがその時テラさんが、俺に警告を発した。


『いえ、聖剣を通じて力を吸収されているようです』


「!」


『聖剣を通じ、湖を介してネットワークが構築されている影響だと考察します』


「ネットワーク……網だけに?」


 なんて言っている場合でもない。


 どうやら力を吸収できるのは、攻撃だけではなかったようだ。


 ベルジュ君が直接疲労を感じるほど、力を吸われているのだとしたら限界まで力が集まるまで時間はないのかもしれない。


 実際聖女様の聖剣から発せられる光は増してゆき、聖都は落下し始めていた。


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