大体こんな感じ
「……あー」
高々と水柱が上がっているのを俺は唖然として眺めていた。
そして俺はざっくりこうなった経緯を考えてみた。
ニーニャとトシが遅れて到達。
そこには派手に暴れてるシャリオお嬢様。
そのまま巻き込まれて戦闘に突入。
興奮したトシのスイッチが入り暴走し、大暴れ。
「だいたいこんな感じではないだろうか?」
ある程度ニーニャ達の動きを把握しているであろうテラさんに尋ねてみると、ピンポンと小気味のいい音が鳴った。
『大筋では正解です』
「だろうね」
そして湖のあふれ出した水に乗ってドンブラコと流されて来た顔ぶれは、そろって元気そうだった。
「なんですの一体! 説明を要求します!」
ザバリと水のしぶきをまき散らして叫ぶシャリオお嬢様は、びっしょり水にぬれトレードマークのドリルヘアーがストレートになって別人のようだ。
そして同じく流れ着いたニーニャは仰向けに倒れたままヨッと右手を掲げて見せる。
「おつかれ……」
【疲れた……】
いつも通りの思念での呟きに嘘偽りは一つもない。
俺はニーニャを水から引き揚げて、ひとまず背負った。
しかしそれを見て、声を上げたのはこちらに気づいたシャリオお嬢様だった。
「ちょっとニーニャさん! なんてうらやま……ではなく、そういえばわたくしが知らない間に彼を呼び出しましたわね! そこはしっかり一言言ってくださらないと! 大事なことですよ!」
シャリオお嬢様は声をひそめたり荒げたり忙しかったが、言っていることは的外れなので今は優先すべきことが沢山ある。
トシは湖と呼ばれている場所にまっすぐ落ちた。
水はあふれて、元々小さなため池程度しかない湖が無事に済むとは思えない。
ひょっとすると、暴走トシの落下に巻き込まれて聖女様すら無事なのかも不明だった。
「……うーん、大変なことになった」
なんというか今までの流れが台無しである。
今のは完全に不意打ちの特大のトラブルだった。対応するのも難しかっただろう。
能力さえ使わなければ聖剣士達の戦闘能力自体はそう高いものではないことは三聖騎士の面々を見ても明らかだ。
考えてみれば、波にのまれていても何も不思議ではないのかもしれない。
聖女様とツクシを探したが、どこにも見当たらなかった。
「一体何が起こったんですか!」
ベルジュ君は恐ろしく慌てふためいていたが、彼の混乱が収まる間くらいまでには状況を見極めて、何らかの方針を打ち出す必要がありそうだ。
まずはどうやってトシを元の状態に戻すか? それだけでも頭が痛い。
そう思っていたのだが、俺の予想は大きく裏切られることになった。
「……は?」
間抜けな声が口をつく。
すぐにでも湖の中から元気に飛び出し、大暴れを始めると思っていたトシはしかし完全に拘束された状態で湖からゆっくりと浮上してきた。
「……ゴルルルルル」
トシの体に絡みついているのは透き通る網のようなものだった。
水の網は暴走トシの体を絡め取り、あのめちゃくちゃなパワーを完全に抑え込んでいた。
水の網を構成している一本一本の糸には、うっすらと血管のような光が見え、元をたどれば―――彼女がいた。
「……邪魔をするなぁぁぁ!」
聖女様にはダメージらしいダメージないらしい。
聖剣は、思ったよりも応用が利くようだ。
髪を振り乱し、巨大な剣を振り回す聖女様は、見た目は完全にホラーだった。
「ハハッ、元気いっぱいだな……」
俺は背中に汗をかき、ごくりと喉を鳴らした。