これは文句を言われても仕方がない
聖女様の放ったエネルギー波みたいなものは、完全に直撃コースだった。
しかし覚悟していた衝撃はなく、落下と衝撃で俺はうめき声をあげた。
「ぐぇ」
「ちょっと! 迂闊すぎるんじゃないの! 死ぬわよ!」
「……その通りだ。聖女様のお力は想像を絶するぞ。我々とは格が違う」
「……あんたたちが助けてくれたのか」
気が付くと、ククリとクラウ、敵だった聖剣士の二人が俺達を見下ろしていた。
ククリの力でいったん退避できたらしい。
どことなく恩に着ろよと目で訴えるククリを見れば、何が起こったのかはよくわかる。
「……転移系、すごく便利だね」
俺は体を起こし、いったい何が起こったのか見てぞっとした。
湖と聖女様。そして剣を突き刺したツクシを除いて、結晶化した地面も、白いドームもまとめて破壊されていたからだ。
俺達は新たな水晶によって守られている。
それをやったのはクラウという聖剣士によるもののようだった。
彼の掲げた半ばから折れた聖剣は青白く輝き、光は弱々しいものの力を発揮しているのが分かる。
クラウという男は感情の読み取れない、無表情で俺を見ていた。
何か言いたいことでもあるんだろうか?
そりゃこれだけ暴れれば相当溜まってはいるだろう。
どんな罵倒が飛び出すやらと思っていると、クラウは俺に問いかけた。
「……ベルジュはわかる。しかしお前たちは何なのだ? なぜベルジュに手を貸す?」
「助けを求められたから」
俺は即答した。
ぎょっとした表情をしたクラウの気持ちはわかる。
クラウはすぐに真顔の戻ると、自分のこめかみを押さえて、ため息を吐いた。
「……そんな言葉は信じられない。侵略しに来たと言われた方がまだ信じられた」
まぁ当たらずとも遠からずな方々もいるので、深くは語るまい。
それよりも今はリターンマッチに気合を入れなければツクシが待っている。
「だろうね。じゃあ、すまんが行くよ。助かった」
礼を言って、次の作戦を考えていると以外にもクラウはもう一度話かけて来た。
「……待て」
「なに?」
「……お前では聖女様を無力化できない。聖剣を破壊できるのは聖剣だけだ。聖剣は湖の無限の力を自分の形で体現する窓だ。剣のように見えるが、金属ですらない」
「いいのか? そんなこと教えて?」
「……聖女様を止められるのなら止めたいが、我々では不可能だった」
苦々し気にクラウは言った。
「この新世界に到達した時、あの方は正気を失われた。あの時はすべての力をこの世界に来るために使い果たされていたから、三人で封印できたが今となってはそれすら不可能だろう。だが君達なら可能かもしれない」
クラウは目を伏せる。
傍らのククリも目をそらしていて俺はなんとなくピンときた。
「まぁ……ちょっと頑張ってみるよ。やっぱりみんな聖女様を助けたいんだな」
なんだかんだ言ってみんな様付けだし、聖女様に対して一定の敬意みたいなものを彼らから感じていた。
ベルジュ君の言葉から感じた尊敬や信愛は、聖都の中で共通のものだったわけだ。
こうなると、益々やる気も沸いてくる。
「……」
ベルジュ君は彼らの言うことを黙って聞いていた。
そしてグシグシと腕で目元をこすり、俺の後をついてきた。
「ちょっと話し込んでる場合じゃないぞ! これきついんだ!」
ツクシが怒り気味に声を上げ、今も地面に自分の剣を突き刺したまま頑張っている。
聖女様は攻撃に使用した分、チャージを少し減らしたようだが、そんなものごくわずかではあったのだろう。
本当かどうかはわからないが、本来であれば、世界を破壊するという触れ込みの攻撃が可能らしい。
さっき程度の爆発で、全力だとは思えない。
今すぐにでも俺達はもう一度挑戦するつもりだった。
しかし同じことを繰り返してもちょっとうまくいく保証はない。
「どうするつもりなんですか?」
真剣な面持ちでベルジュ君は俺に問うが、俺はちょっとした閃きがあった。
「そうだな……俺が聖剣を破壊できないなら前提が変わるな。いっそ湖の方を狙ってみるか? あっちが力の大元なんだろ?」
「えぇ? それはさすがに……」
とりあえず、聖女様が死ぬ心配がないなら、遠慮のない火力も叩き込める。
クラウの話を信じるなら、どうせ俺は援護に徹するしかないのだ。
だめもとで別のアプローチを試すのも一興である。
「一瞬でも隙になればよしだ。まぁ無駄かもしれんが」
「なんだか楽しんでいますか? 急に話始めるし」
「そう? まぁ色々と事情があるのさ。お互いに」
ヘルメットの下の顔は確かに笑っていた。
俺は拳をきつく握り、聖女様から湖に狙いを変える。
「テラさん。砲撃するぞ。湖の水丸ごと電気分解してやろう」
『大変危険です。では実行します』
なんだかすごいことを言われたが、気にしない。
両手を突き出し狙いをつけた。
おおよそ威力は理解しているから、心の準備は万全である。
「あ、あの、すごい腕が光ってるんですけど……大丈夫でありますか?」
「大丈夫だ。こういう技だ」
「え? でも、ツクシさんもいるでありますよ?」
「大丈夫。あいつはこれくらい、へでもない」
「えええええ……」
ベルジュ君の準備は全然できてはいなかったが、撃った後で納得してもらうとしよう。
『チャージ完了しました』
「よし!」
今まさに発射する直前だった。
頭上で派手に爆発が起こるが、やったのは俺じゃない。
「なんだ!」
見上げると天井が破壊され、瓦礫と一緒に、見知った顔が落ちてくる。
それはボロボロのシャリオお嬢様と、見知らぬ大男。そしてそれを必死に抱えるニーニャだった。
だが、ニーニャ達よりも注目すべきは、三人を追って迫る巨大な腕だ。
「グオオオオオ!!!」
恐ろしい声量の叫び声をあげる、巨大な化け物にはものすごく心当たりがある。
「……トシか!」
落下してきた暴走トシは湖にまっすぐ落下し、そのまま底に穴を開けるような右ストレートを湖面に叩き込んだ。