聖剣を無力化しよう
見えない壁で防御を固め、必殺技のタメを行う。
変になったという割には冷静な戦いの構えを取る聖女様だが、とにかく目つきがやばい。
これは少々急ぐ必要がありそうだ。
俺の武装で、果たしてあの防御を突破できるかは疑問である。
最近火力の方は充実しているはずだが、少なくともこのパワードスーツを着た状態で追突してもあの湖の上にすら入ることができなかった。
硬いというよりも力そのものが反射されたような感覚は、手ごたえがあったとはとても言えない。
ベルジュ君は言った。
「……とにかく聖剣を無力化してください。奪えばきっと活路が開けます」
俺達は頷く。
だがそれでもやってみるしかない。
俺は構え、再び突撃しようとしたが、俺の目の前に手をかざしそれを止めたのはツクシだった。
「待て、僕がやるぞ。聖剣がそう言ってる。アレを破れるのは自分だけだって」
「!」
なにそのカッコイイ設定、ちょっと分けてほしい。
でも家にはテラさんがいるので悔しくなんてない。
「まぁ見てろ!」
そう言って飛び出したツクシは、見えない防壁に聖剣を振り下ろした。
「どっせい!」
カンと澄んだ音がこだまして、空間全体が震える。
聖剣の触れた空間に波紋が生じ、波は徐々に大きくなっていった。
「ぬぐぐぐぐぐ……」
ツクシが力を入れて聖剣が深くゆっくりと、光る刃を奥へと押し込んでゆく。
そして剣先が、地面に到達するとツクシはドカリと地面に聖剣を打ち付けた。
「よし! いけ!」
一体何をやったのか、端目にはわからない。しかしやらなければいけないことはわかりやすい。
俺はようやく地面を蹴って、ツクシの用意した道を雷のように駆け抜ける。
「! ……こざかしい」
今度はなんに阻まれることもなく拳は聖女様まで到達した。
拳は火花を散らして、聖女様の聖剣によって受け止められていた。
パワードスーツ越しにも分かる、聖女様のパワーは生身とは思えない。
止められた拳はそこからピクリとも動かなかった。
「……なら、これならどうだ!」
更に電撃。
派手に雷光が迸る。
「……!」
聖女様の表情が歪み、バンと衝撃に耐えかねて跳ね飛ばされた。
その瞬間、誰かが俺の背中を踏み台にして、飛んでいた。
「聖剣よ! 力を貸してください!」
そう叫んだベルジュ君の手に、突如として現れる聖剣を俺は見た。
決死の覚悟で飛び出したベルジュ君の聖剣は彼の意思に応えて、彼の手に戻った。
何それカッコイイ。うらやましい。
家にテラさんがいなかったら嫉妬してしまっていたかもしれない、そんな光景を間近で見ていた俺は聖女様を目の端で捉えハッとした。
「……! あああああ!」
血走った目でこちらを睨む聖女様から、明確な敵意の匂いを感じ取ったからだ。
聖剣の力とか別に感じ取れなくてもわかる。
厄介な何かが何秒か後に起こると確信した俺は、ベルジュ君をかばって更に前に出ると眩い光に飲み込まれていた。