ツクシの考え
不気味な気流が聖女の周囲で渦を巻く。
その中心は、聖女様の持つ聖剣だった。
そんな時ツクシが俺に向かって突っ込んで来た。
ちなみにツクシの今の見た目は、完全に大人バージョンである。
「ぬおおお!」
俺はツクシを受け止めて、何とか着地させた。
「ようロボ! 手助けしに来てくれたのか!」
笑顔を輝かせるツクシに、俺は軽く頷いて見せた。
「おお! やっぱりそうか! さすがだな!」
何がさすがなのかわからなかったが、俺はツクシのノリに乗っかることにした。
そうすれば少なくとも、肝心のベルジュ君には話が早いはずだった。
「あの……ツクシさん。この方は?」
ようやくそう尋ねたベルジュ君に、ツクシはざっくり説明した。
「こいつはロボだ! 味方だぞ!」
「そう……なんですか?」
「ああ! じゃあ行くぞ! あの聖女様、強いぞ! おとなしくさせるのは大変そうだ!」
ぺろりと舌を出しツクシはやる気十分で、聖女様に狙いをつけていた。
「……!」
しかしベルジュ君の方は違う。
彼女はツクシがそう言った時、ブルリと体を震わせて、目をそらした。
そして震える声で言った。
「私は……間違っていたかもしれません……」
そんな言葉をきっかけに、ベルジュ君の堤防が決壊した。
俺はそうなっても仕方がないと当り前の事に気が付いて、立ち止まる。
封印の真実は、俺でも途方にくれたのだ。
後から後から出てくる涙を抑えきれないベルジュ君に、しかしツクシはきょとんとした目を向けて言った。
「ベルジュはなんか間違えたのか? 何にも間違ってないと思うぞ?」
「へ?」
あまりにもあっさりとツクシは言う。
「恩人を助けたいと思うのは普通のことだろ? ベルジュが命がけで王都に来たんだってわかった時から、僕らは君が間違ってるなんて思ってないぞ?」
「……」
「君にとって、聖女様を助けることはそれだけの価値があったんだ。君が本気だったから僕らは手を貸したんだ。途中であきらめたらだめだ。せっかく命がけだぞ? ハッピーな終わりを目指さなきゃな!」
ツクシは笑ってそう言い放つ。
ベルジュは肩を落とし、ツクシに尋ねた。
「……ハッピーですか? それは聖女様をもう一度封印することでしょうか?」
そうベルジュ君はかすれた声で呟くと、ツクシは何言ってんだと唇を尖らせた。
「違う! ぶっ飛ばして、戦えなくして。こっちの世界も捨てたもんじゃないってわかってもらうんだ! ベルジュにしかできないんだぞ!」
「!!」
ツクシにそう言われた瞬間、ベルジュ君は目を見開いて固まった。
なるほど、ツクシらしいと俺はマスクの下でにやりと笑う。
俺達とてここまで来たのだ。このまま中途半端に封印し直して終わりなんてことになっても意味がない。
「じゃあ頑張るぞ!」
ツクシが改めて号令をかける。
ツクシの聖剣は、力強く輝きを増していた。
「……はい!」
ベルジュ君は今度こそ涙をぬぐって、それに応えた。