聖女の復活
クラウ様から奪い取った聖剣をもって、ベルジュ達は聖女様の前に急いだ。
「それで、封印は解けるのか?」
「はい、そのはずです……」
奪った聖剣の光は完全に失われていた。
しかし、聖女様は、いまだに結晶から解放されていない。
ベルジュは泣きそうな顔で、ツクシさんを見た。
「どうしましょう……ダメでした」
「そんなこと言われてもな? もっかい殴ってみるか?」
「いや、それはさすがに聖女様が危ないかなって思うんですが」
「そうか? なんか思いつくことはないのか?」
「うぅ……」
珍しく困り顔のツクシさんにさらに返されて、ベルジュはもう一度頭を捻る。
そして、案にもなっていないようなことを口にした。
「……より上位の聖剣の力なら、この結界を打ち砕けるかも」
聖剣の強さはその序列に比例する。
要するにこの世界に生まれ落ちた順番なのだが、現在聖都にはクラウ様以上の序列の聖剣は存在しない。
万策尽きたと崩れ落ちそうになっていたベルジュだったが、ツクシさんの方は首を思い切りかしげていた。
「ふむ……じゃあやってみるかな? あ、でも聖剣取られたままだ」
そしておもむろに手を空に掲げると、思い切り叫んだ。
「聖剣! こぉい!」
「!」
するとズドンっと天井を破壊して、一本の剣がツクシさんのところに飛んできた。
ただ自分で呼んだというのに、当の本人が一番驚いていたが。
「おぉ……なんとなくできる気がしたけど、……ホントに来たな! やってみるもんだ!」
「で、出来るかどうかもわかってなかったんですか……」
このツクシさんは本当にでたらめにもほどがある。
ツクシさんはさっそく自分の聖剣とクラウ様の剣を持ってとことこと少し距離を取る。
そして、クラウ様の聖剣を床に置くと、そのまま自分の聖剣を思い切りたたきつけていた。
「よいしょぉ!」
「……なにをするつもりだぁ!」
叫んだのはクラウである。
まだ先ほどのダメージが抜けきっておらず、立ち上がれもできないので、無駄な抵抗だった。
「……あ」
カッキンと、音は思ったよりずっと澄んでいて、儚い。
クラウの聖剣はへし折れ、その瞬間バキンと部屋中で嫌な音がした。
ベルジュは慌てて聖女様の前にかけよると、結晶には真一文字に切れ目が入っていた。
結晶の切れ目から徐々にひびが入り、ついには砕け散った。
ベルジュはとっさに力なく倒れこんできた聖女様を受け止め、込みあがってくる熱いものを何とか堪えようと涙腺に力を入れていた。
「ああ、聖女様―――ようやくお会いできましたね」
ベルジュはずっと、その瞬間を待ち望んでいた。
そして今、苦労は報われ、聖女様を助け出すことができた。
腕の中の聖女様をそっと地面に下ろす。
聖女様は、ゆっくりと眼を開いた。
瞳は焦点が合わずにしばらく虚空をさ迷って、ぼんやりとした様子で体を起こすと周囲を見回す。
そして聖女様はフラフラと頼りない足取りながら自ら立ち上がり、ベルジュを見た。
「ああ―――なんということだろう。まだこの世界は続いているのか」
「え?」
だが封印から解放された聖女様は、絶望に染まった表情でそう呟くと、自らの聖剣を鞘から引き抜き、ベルジュを横なぎに斬り付けた。