一件落着?
クラウ様の聖剣はこの部屋を覆う結晶を刃をしたような青く透き通った剣だった。それは両手で持つための剣の形状で光が宿ると、吸い込まれてしまいそうなイメージが沸きあがる。
一歩引いてしまいそうになるベルジュの背中を押したのは、ツクシさんだった。
「変な剣だな?」
「……はい。クラウ様の剣は封印の聖剣と呼ばれています。私は抜かれているのを見るのも初めてであります」
「そうか。……うん! じゃあちょっと気合を入れるぞ!」
そう言って、無防備に前にでたツクシさんの身体は、光り輝き始めた。
彼女の身長は急激に身長が伸び、何時しか後姿は、成長した大人の女性に代わっていた。
ベルジュは思わず息を飲み、声が出ない。
一瞬であまりにも美しく成長したツクシさんは伸びた長い髪をなびかせて、クラウ様に向かっていった。
クラウ様もツクシさんの変化には驚いているらしい。
しかし彼の余裕はくずれることはなく、聖剣の切っ先をツクシさんへと向ける。
「ツクシさん! 気を付けてください! おそらく封印に強さは関係ない!」
事実氷漬けのようになっている聖女様は、クラウ様よりも格上だった。
それなのに聖女様を捕らえることができたことが、彼の聖剣の力の異質さを物語っていた。
あまりにも堂々と距離を詰めるツクシさんに、容赦なくクラウ様はその能力を行使した。
「何を言っても無駄だよ。さぁ、眠りなさい……」
ツクシさんの周囲に無数の結晶が生まれているのが見えた。
ツクシさんは右拳を振り上げてまっすぐにクラウ様に狙いを定めていた。
クラウ様が穏やかに微笑むと、いきなり結晶は成長しツクシさんの全身を覆いつくす。
「他愛な―――」
クラウ様の方が速い。もうだめだとベルジュは表情を強張らせた。
「ふん!」
ガキンと甲高い音がして、ツクシは巨大な結晶の柱に取り込まれたが、ツクシさんの振り上げた拳は、予定通りに振り下ろされた。
「……!」
結晶が砕けてキラキラと、飛び散っている。
そして結晶を砕いたツクシさんの拳はクラウ様の顔面に突き刺さっていた。
彼は吹き飛び、ワンバウンドして跳ねる。
あまりにもあっけなくクリーンヒットした自分の拳をじっと見つめて、ツクシさんはベルジュを振り返った。
「よし! これで一件落着……か?」
そう言われたベルジュはツクシさんと床に突っ伏すクラウ様の両方を交互に見て曖昧に呟くことしかできなかった。
「は、はい……そう、だと思います」
なんというか、でたらめだった。
恐る恐るベルジュはクラウ様のそばに歩み寄って、彼の聖剣に手をかけた。
この聖剣を彼から奪えば、封印は解除されるはずだ。
しかし奪おうとしても聖剣はクラウの手から離れない。
「クッ! やめろ……。あの方の封印は解いてはいけない」
まだ意識があったクラウ様は聖剣を握る手に一層力を込めてそう言った。
まるで懇願するような見たこともないクラウ様に引っかかるものがあったベルジュだったが、それでもはっきりと彼の言葉を否定して首を横に振った。
「嫌です! あの方がどれだけ自分達を助けてくれたと思っているんですか! 苦労してやって来た新世界を聖女様が享受できないなんて間違っています!」
そしてベルジュは無理やり聖剣をその手から奪い取った。