クラウ
「聖女様は一体どういう状況なのですか! 答えてください!」
ベルジュは三聖騎士、クラウに問いただすが、クラウの返事は短く淡々としたものだった。
「……伝えたはずだ。聖女様は疲弊なさっている。封印しているのは見ての通りだ」
聖女様は生きているのか死んでいるのかもわからない。
しかし、謎の結晶に閉じ込められているのがいわゆる封印されているという状態らしい。
「では! いつ封印を解かれるのでしょうか! この結晶は貴方の聖剣の力ですよね!」
おそらくはこれをやった張本人がクラウであろうと辺りをつけて要求するが、やはりクラウは首を横に振った。
「……封印を解く予定はない」
「なぜですか! 疲弊なさっているのなら一刻も早く休養が必要なはずです!」
「ならぬ。封印を解けば聖女様の命は失われるだろう」
押し問答は続いた。平行線をたどる言い合いに待ったをかけたのは、部外者であるツクシさんだった。
「なんだ? 怪我してるなら回復できる奴がいるぞ?」
「君は?」
「僕はツクシだぞ! 初めまして!」
ズバッと手を上げるツクシさんをクラウはめずらしい困惑顔で見ていた。
「……初めまして。それで君は何なのだ?」
「勇者だぞ? それよりもそこの聖女様は助けらんないのか? 回復魔法を使える知り合いがいるけど」
だがツクシさんの言う回復魔法というモノについてベルジュすらよくわかっていなかった。
「……回復魔法?」
「そうだぞ? どんな怪我でもだいたい治る。それと、おまけでダイキチ特製薬草汁もつけるぞ! こっちは、擦り傷切り傷、あと便秘と胃もたれに効果は抜群らしいぞ!」
「あ、あの汁はやめた方が……。しかし本当にそんな便利なことができるんでありますか?」
それが本当なら、すぐにでも聖女様を助けることができるかもしれない。
そしてツクシの態度はとても冗談を言っているようには見えなかった。
「出来るぞ? 僕はできないけどな! ダイキチ特製薬草汁はすごい効き目で……」
「そっちではなく魔法の方です。でも聞いたでしょう? 彼らはこの世界で出会った人たちです! 我々の知らない未知の力を持っています! 彼らの力を借りれば 聖女様を癒せるかもしれません!」
元の世界にはなかった可能性を提示すれば、なにか変わるかもしれない。
そんな希望をベルジュは持っていた。
ただ、ベルジュの予想が正しければ、提案は断られる。
「……そうか」
クラウは自分の口元を隠して、考えているようなしぐさを見せたが結局ベルジュにしてみれば最悪の言葉を口にした。
「だがそれはできないな」
「な、なぜですか……」
「君に答える必要はない」
はっきりと断言されてベルジュの頭に血が上る。
今にも飛び出していきそうなベルジュを止めたのは、ツクシさんだった。
彼女は、クラウを見てにこりと笑う。
「悪いけど、僕らはベルジュに尽くぞ。人間がそんな状態でいるのはおかしいのは見ればわかる」
そして今度はベルジュを見た。
ツクシさんは何も言わなかったが、僕の答えを待っている。
ベルジュは一度力強く奥歯を噛みしめ、叫んでいた。
「聖女様を返していただきます」
ベルジュの言葉を聞いたクラウは小さなため息を一つ吐き出した。
そして鋭く冷たい光をその目に宿し、腰の鞘から聖剣を抜き放つ。
「……ならば死んでもらうことになる」