出遅れた気がする
俺、大門 大吉は大急ぎで隠れ家から飛び出して地上を目指していた。
「なんか……事態がめちゃくちゃ進んできた気がする!」
というか乗り遅れている気がすると、俺はよくわからない焦燥感にさいなまれていた。
いや、移動する能力者の言葉を信じるなら、すでにツクシ達はもう湖の砦とやらにいる可能性が高いのではないだろうか?
だとすると、ぐずぐずしている暇はない。
俺は焦り気味にニーニャに尋ねた。
「あいつの言ってたことは本当か? ツクシ達は今どこにいる?」
するとニーニャの眉がハの字にゆがむ。
【たぶん……あっち】
「よし! あっちか!」
しかし泳いだ彼女の視線を追うと俺の懸念が現実のものになっているのは一目瞭然だった。
ドカンとでっかい爆発が起こって地面が揺れ、火柱が上がった。
俺とニーニャとトシもまとめて目が完全に点になった。
「なんか……もう始まってるっぽいな」
【……】
「燃えてる」
俺達は顔を見合わせて、とにかく走った。
人目はもう気にしない。
スーツのパワーをフルに使えば、建物でも何でもまっすぐ一直線に飛び越えられたが、ニーニャとトシでもトップスピードにはついてこられない。
「すまん! 二人とも! 先に行く!」
【……頑張って!】
「頑張れ!」
エレクトロコアが出力を上げると雷光がバチッと弾けて加速する。
黄金の町を飛ぶように駆け抜け、上がる火柱に飛び込むまでにそう時間はかからなかった。
煙を突き抜けて湖の砦の屋根に着地。
この炎はシャリオお嬢様の物で間違いない。そしてこれだけの炎である。
おそらくは先ほど遭遇した三聖騎士とか言う連中と遭遇しているに違いなかった。
「まずは、シャリオお嬢様から加勢しなきゃな……」
出遅れたが、出遅れたなら出遅れたなりのメリットというモノがある。
ヒーローは遅れてやってくるもの。
ここは一つ颯爽と登場して、スマートに助けに入りたいところだった。
「テラさん状況は?」
『戦闘中です。シャリオ様が優勢です』
「……そうか」
天井の穴からシャリオお嬢様の様子をうかがうと、確かに今はまだ何かと戦っているようだった。
「何度やっても無駄だとまだわかりませんか?」
「ぬおおおお!」
巨漢の男が剣を振り回し、必死にうねうね動く光沢のあるものを操っていたが、全てシャリオお嬢様に到達する前に形が保てず崩れ落ちていた。
シャリオお嬢様の炎は大男の眼前で爆発し、巻き込まれた大男はなすすべもなく吹っ飛ばされた。
炎の周囲には何人か人間がいた。
その中には先ほど戦ったククリという名の女の姿もある。
しかし炎の結界に近づくこともできないらしい。
シャリオお嬢様は大男を完全に圧倒して、倒れ伏した男を踏みつけた。
「諦めなさい。これでも手加減しているのです」
「ぐっ……」
呻いている大男は動くこともまともにできない。
言っている間に戦いは終了したらしい。
シャリオお嬢様の完全勝利にしか見えない状況にケチのつけようがなかった。
「こりゃあ。手助けの必要はないかもしれん」
シャリオお嬢様は魔王や熱にやたら強かった蒸気王のような奴らとは相性が悪かったが十分すぎるほど強かったんだった。
現状を見れば存分に力を振るえているのは明らかである。
ならばさっさと中に突入して、肝心のベルジュ君を探そうか。
「テラさん。ツクシ達の居場所はわかるか?」
『不明です。何か特殊なフィールドにいる可能性があります」
「なに? そいつはいよいよ出遅れたっぽいな……」
俺は急いで天井から飛び降りて着地すると、シャリオお嬢様と目が合った。
何ならベルジュ君の居場所を聞いてもよかったのだが、その瞬間、目に見えてシャリオお嬢様の表情が強張る。
そして彼女はそっと、大男を踏みつけにしていた足を引っ込めると、その場によろよろと尻もちをついて叫んだ。
「た、多勢に無勢ですわよ! このままでは負けてしまいます!」
「……」
どう……反応すればいいのか。
でもたぶんそんなことはない。
困惑している聖剣士達の表情を見るまでもなく、俺にもそれはわかる。
とりあえず俺はぐっと親指を立てておく。
そしてちょっと面白いことを考えた。
俺は敵の一人に狙いを定め、そっちに向かって突撃した。
そして俺に気が付いたそいつは驚愕の表情を浮かべている間にかっさらう。
「お、お前は! 放しなさい!」
「なら、道案内をしてもらう。他に侵入者がいただろう? どこにいるか教えてもらう」
このテレポートを自在に使える聖剣士なら、方向感覚もさぞよかろう。
闇雲に探すよりもはるかに効率がよく、シャリオお嬢様の助けにもなる。
まさに一石二鳥。そう思ったが、気のせいか周囲の火力は上がった気がした。