炎の魔法使い
「なんだその力は? 聖剣を使わずになぜそんなことができる?」
グラディウス様は困惑しているようだった。
他の聖剣士達はまともに動くことさえできずにいるのだからそれでも冷静さを保っている方だろう。
だがそんなことは興味もないのかシャリオさんは肩をすくめて、より大きく燃え上がる。
「……よく体感なさいな。これがわたくし達の魔法というモノです」
そして軽く手を振ると、炎の塊が次々と飛んで行く。
「……熱い」
ベルジュは思わず呟いた。
グラディウス様は身をかわしていたが、何回かそれを繰り返すと辺りは一瞬で火の海と化してた。
「……ぬぐ、当たりませんわね。これだから室内戦は嫌いです」
なるほど! 確かにこれはツクシさんに任せた方がいいとベルジュは理解した。
最初からシャリオさんが同じように暴れていたら、砦は燃え落ちていたかもしれない。
そして本人は熱など一切感じていないのもこの場合はたちが悪い。
本人はノーダメージでも周囲にいる味方はそうではないからだ。
彼女は一人の方が強い。
グラディウス様も同じ答えにたどり着いたようだった。
「なるほど……貴様との戦い長くなればなるほど我らが不利となるな……」
「蒸し焼きになりたくなければ、早めに直撃してくださいな」
「すさまじいな、まるで炎の女神のようではないか……それが魔法なのだな。だが、こちらもそう簡単にやられてやるわけにはいかんのさ!」
叫び、グラディウス様は聖剣を正面に掲げると、激しく刃が輝き始めた。
「ならばこちらも聖剣というモノを見せてやろう!」
グラディウス様の足元の床が黄金に変化し、徐々に広がってゆく。
「聖剣は我が意識を増幅し、現実を侵食する」
「それは面白い。ずいぶん黄金が好きですのね」
「そうとも。黄金はいい。そして我が意識は知覚する空間内の物質を黄金に変える」
「……う」
一気に、廊下全てが黄金に書き換えられていた。
「さぁこれで、お前たちは我が腹の中よ! 潰れろ!」
廊下のすべてが滝のように崩れて降り注ぎ、どろりとシャリオさんを絡めとる。
「ハハハハ! どうだ黄金の滝に打たれた感想は!」
もはや完全にシャリオさんだけに狙いを定めたグラディウス様は、すでに固まった黄金の塊を見て決着を確信したようだった。
「……感想ですか? 問答無用で私自身が黄金にされていたらどうしようと思っていましたけど、そういうことはできないのね。先ほどの剣の方が芸術的価値があるのではないかしら?」
「は?」
黄金が赤く光だし、破裂した。
中から現れたのは、もちろん炎の化身のような巻き毛の美女であった。
シャリオさんは、自分の熱で溶かした黄金の中を、まるで水の中でも歩くかのように悠々と歩ききり、グラディウス様の前に立つ。
「な!なんだと!」
「さて、勇者様とベルジュさん? ここは任せていただきましょう」
シャリオさんはにっこりと笑い、ツクシさんとベルジュに先に行くよう促した。
「次は何を見せてくれるのかしら? わたくしも器用ではありませんから、馬鹿の一つ覚えで、すべて炎で燃やし尽くしてあげましょう」
「……っ」
だが、その笑みは、聖剣士達を完全に震え上がらせていた。
「おう! ここは任せたぞ! ベルジュなんか面倒だ、目的地は上か下か?」
「え? し、下です!」
「わかったぞ!」
ツクシさんはすぐにそう答えると拳で地面を打ち据え床を抜く。
「ひゃあああ!」
ベルジュもまた、ツクシが開けた大穴に瓦礫と一緒に落下していた。