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王都の最高戦力

 と思っていた時期をベルジュは生ぬるかったと反省した。


「うわあああああ!」


「よぉし! どんどんこい!」


 また一つ悲鳴が上がる。


 一般市民が恐れ讃える聖剣の光も、今は蛍の光のように儚く宙を飛ぶばかりだった。


 湖の砦内部を、目的地目指してまっすぐ進むベルジュ達は、次々に騒ぎを聞きつけた聖剣士達に囲まれ、あっという間にそれを蹴散らしてゆく。


「あ、あの、もう少しコソコソ行った方がよかったのでは?」


 話を持ち込んだ人間の言うことではないのはわかっている。


 しかしついこんなことを言ってしまうベルジュに帰ってきたのは困り顔だった。


「むつかしいな! 他のみんなからはコソコソすると僕は余計に目立つそうだぞ!」


「え? それってどういうことなんですか?」


「わからん!」


 理由は不明だが、コソコソすると目立つらしい。


 そういえば、最初は自分達ももう少し隠密行動をとるつもりだったことをベルジュは思い出した。


 この勇者は思っていたよりもずっと強い。


 この力をもってすれば大抵のことが力づくで解決できてしまうのではないかと、ベルジュはそんな恐ろしい考えが頭をよぎった。


 やれやれとため息を吐き、ベルジュの隣を歩くのは赤い巻き毛を揺らすシャリオさんだった。


「勇者様の戦いぶりは伝え聞いていましたが、実際見る方が衝撃的ですわね」


「そ、そうですよね!」


 ここに来て感想を共感できる人が現れたと思ったが、親指の爪を悔し気に噛むシャリオさんは、どうにも考えていることが根本的に違っていた。


「すっかり先行して事を起こしてしまいましたわ。この分ですと目的はあっさり達成できてしまいそうですし。ニーニャさんが間に合ってくれるのかが勝負ですわね」


「……えっと、何が勝負なのかわからないんですが?」


「それは、まぁ、ニーニャさんの護衛がわたくしの任務なわけですし? 報酬もいただける話しになっているのですから……まさかどこかに行ってしまうとは」


「は、はぁ」


 合間に返事はしたものの、やはり言っている意味は分からなかった。


 それが分かったのか、いらだった風のシャリオさんは少しだけ語気を強めた。


「まぁそれはいいでしょう? こちらであっているんですわよね?」


「は、はい! 大丈夫であります!」


「よろしい。まぁ目的さえ達成できれば結果的に報酬をいただいても何の問題もないでしょう」


 ただ少しベルジュには気になることもあった。


 さっきから戦っているのはツクシさんばかりで、シャリオさんは特に手を出すようすがなかったのだ。


 仲間だとは思うのだが手を出そうとしない彼女に、ついベルジュは尋ねていた。


「あの……ツクシさんを助けなくてもいいんですか?」


 すると、シャリオは驚いた顔をしてベルジュを見た。


「ああ、わたくしの魔法は手加減に向いていませんから。ここはお任せしてもいいでしょう」


「は、はぁ」


「わたくし期待していますのよ? せっかく来たのだから私向きの相手がいてほしいものです。このまま出番なしでは来た意味がありません」


「……いえ、まぁ強い方には遭遇しないのが一番いいんですが」


 意味ありげなセリフだが、どうとらえていいのかわらずに、ベルジュは曖昧な笑みを浮かベた。


 ただ噂というモノは緊急事態であるほどするべきではないのかもしれない。


 荒々しい足音と共に聞こえてきたのは、一番聞きたくない声だったからだ。


 ベルジュは声の方向に意識を集中し、冷や汗をかく。


 やはり視線の先には黒いカソックを身に着けた身長二メートルはある大男がのしのしとこちらにまっすぐ歩いてきていた。


 彼は、怯え始めている聖剣士達を文字通り押しのけて、ベルジュ達の前に現れた。


「どけどけ! お前たち情けないぞ! 女子供に好き勝手やられおって!」


「……!」


 三聖騎士 グラディウス。


 金属を操る聖剣を使う彼の力を知らない者はこの聖都のどこにもいはしない。


「よう、お前達。ずいぶんおとなしく捕まったと思ったが、やってくれるではないか」


「お? さっきのでかいのが出て来たな」


 ツクシさんは見上げるほどの大男を前にしても全く怯まない。


 だがグラディウス様はツクシを覗き込み、不満そうに言った。


「そういうお前はずいっぶんちっこいな。我が相手を務めるというのなら、あと頭一つ分背丈が欲しいところだな」


「な、なにー!」


 怒ったツクシさんは眼中にないのか、グラディウス様の視線はベルジュの横にいる鎧の女騎士に向いていた。


 グラディウス様はシャリオさんを指さし、にやりと笑みを深めた。


「それに、そこの女。子供に任せて高みの見物とはいただけんな。暇なら我が相手をしてやろうか?」


「あら? お誘いはありがたいのだけれど。わたくしナンパな殿方には興味ありませんの」


「ハハハハ! そうか! ならば早々に退場願おうか!」


 グラディウス様は数度のやり取りを終え、片手剣を振り上げる。


 すると彼の聖剣から黄金色の光が輝いて、周囲に黄金がどろりと液体のように現れた。


 その剣は金属を操る聖剣である。


 すべてが廊下一面を埋め尽くす黄金の剣に姿を変えた光景はとても現実だとは信じられなかったが、まぎれもなくその能力が夢でも幻でもないことをベルジュは知っていた。


「では、いけ!」


 叫び声と共に一斉投射がシャリオさんに降り注いだ。


 ベルジュは聖剣を抜いたが、どうにもなる気がしない。


 結局逃げることしかできなかったベルジュに対して、シャリオさんはなぜかその場から動こうともしなかった。


「シャリオさん!」


 ベルジュが叫ぶ。


「ほう……これはまた、美しい」


 グラディウスは大きく目を見開いて、シャリオを見て呟いている。


 だがベルジュは今のシャリオを見て、恐怖を感じ、かける言葉が見つからない。


 撒き毛が、炎のように光を発していた。


 彼女の周りでは炎が躍り、そして降り注いだ黄金は、彼女に到達する前に完全に溶け、床に金属だまりを作っている。荒々しい炎の化身と化したシャリオさんはグラディウス様をきつく睨みつけていた。


「……貴方、わたくしを侮っていますわね?」


「ぬ?」


 その迫力は尋常ではなく、グラディウス様すらたじろがせる。


「わたくし、多少の無礼は大目に見ますが、侮られることだけは我慢がなりません。王都の貴族は侮られたら終わりですもの」


 シャリオさんは右足を半歩後ろに下げて、徒手空拳で構えを取る。


 その全身からは無尽蔵に炎があふれ出て、周囲からは未だかつて見たこともない力に、動揺のざわめきが広がっていた。


「共存するならそれもよし、しかし―――敵なら即時殲滅です。新参の異邦人。ここから先は心してかかっていらっしゃい」


「……なるほど。新世界は甘くはないか」


「こ、怖い……」


 ツクシさんもだが、このシャリオさんも相当に危険だ!


 ぼこぼこと泡立つシャリオの立つ融解した空間を前にして、今度こそベルジュは自分が引っ張りこんだもののすさまじさを痛感していた。


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