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三聖騎士

 その場に転がされている切り裂き魔はマー坊特製、やたら弾力のある分厚いゴムめいたもので、すっぽりと拘束されていた。


 人間の頭こそ出ているが、見た目は黒くてでっかいゴムボールだ。


「くっ! こんなことをしてタダで済むと思っているのかしら!」


 ちょっとポヨポヨ跳ねるくらいしかできない性能は素晴らしい。


 俺はひとまず安心して、一言言ってやった。


「……しなくても首を飛ばそうとしませんでした?」


「……してないわ」


 プイっとそっぽを向くゴムボールを確認して、俺は深く頷いた。


「なるほど。嘘つきがいるぞ。死にそうじゃなきゃあんなに早く反応できないもん俺」


「どういう基準でモノを言っているの貴方?」


「ん。経験則? かなり漠然としたものだから気にしなくていい。ところで、いきなり出て来たように見えたんだが、あれが聖剣の力なのか?」


 テラさんは転移反応があると言った。


 ベルジュ君も似たようなことはやっていたが、この女はもう少し融通が利く様子だった。


「フン。聖剣については知っているのね、余所者。その通り。この三聖騎士ククリの剣能は転移。空間を切り裂き、つなげる力。不意打ちがたまたまうまくいったからと言って調子に乗るなよ小僧」

ぎろりとにらみを利かせ、すごまれても所詮はゴムボールだ。


 だが三聖騎士という単語は気にかかる。


 聖都で一番力があるのは三人に聖剣士ではなかったか?


 では、このゴムボールがそうなのかもしれない。やってることは規格外である。


 まぁ、割と最近よく見る能力なので驚きは少なかったが。


「いや、不意打ちをしたのは貴女でしょうに」


「あわわわわわ……」


 なんとなくドリブル気味にバウンドさせてみると、面白いようにポヨポヨ跳ねた。


「ってやめなさいよ!」


「……つい。しかし大したことをしていた自覚はないんですけどね。どうです? 少し俺にも話を聞かせてくれません?」


 うううと犬のように威嚇しながら唸る彼女に、俺は尋ねると、鼻で笑われてしまった。


「ふん。ごめんよそんなの。そもそもそんな怪しい格好をしておいて、なんで攻撃されないと思うのかそっちの方が不思議だわ」


「えーこんなにかっこいいのにー」


 と俺はぼやいたが、ニーニャとトシは密かに俺を見て、なるほど確かにと頷いたのを俺は横目で見た。


 密かにチェックを入れて、俺は考えを巡らせる。


 さてどうしたものか?


 俺自身にここに用事らしい用事はないが、この剣士は三聖騎士のククリと名乗った。


 無力化できて、話せるのなら聞いておきたいことはある。


「ではいくつか質問をしたい。聖女は今どうなっている?」


 だがそのとたんククリの表情は明らかに変わった。


「……それを知ってどうしようというのかしら?」


「質問はしないでほしいが。一応君は俺にとらわれているわけだから」


 見たままこちらが有利なのは揺るがない。


 しかしククリはニヤリと笑みを浮かべて、ずいぶんと余裕を滲ませて言った。


「私はこの聖都への転移を常に監視しているわ。ここに来た時点で、妙な人間が入って来たのは確認済みよ。もちろんあなたの仲間達もそう」


「……」


「こんなことをしても無意味ってことよ。もう貴方達の仲間は投降している」


「へー……そうなの?」


 俺はぼんやりと尋ねた。


「……わからないの? 行動は慎重に考えるべきね。仲間の命が惜しいのなら」


「ふーん……え?」


 このククリという女は一体何を言っているんだろうか?


 ツクシを捕まえたと言っているように聞こえたのだが、そんなのあり得ないのに。


 情報を処理できずにぼんやりする俺にしびれを切らしたククリは顔を真っ赤にして自分でぼよぼよ跳ねていた。


「なに! とぼけているつもり!」


「……うーん。いや意味が分からなくって。何でツクシ達が捕まって俺があんたを開放するんだろうか?」


「わからないの!? 仲間が大事じゃないわけ!」


 そんなことはないんだけど、納得できないのだが。


 やり取りを聞いていたニーニャも首をかしげていたが、俺に共感できている奴はもう一人いた、


【どういうこと?】


「脳が受け入れることを拒否してるんだ。俺様にはわかる」


 マー坊だけは、俺のセリフに何か感じるものがあったようである。


 だがまぁ、この場合考えるべきは捕まった事実についてではなく、なぜ捕まったのか理由の方ではないかと俺はそう考えていた。


「……まぁいいわ。目的さえわかれば十分よ」


 ただ、最後の一言でククリの声のトーンが一段下がったのに気づくのが遅れたのは失態だった。


「うわ!」


 驚く声はトシだった。


 ヒュンと、回転した剣が俺の脇を飛んで行き、ゴムのようなものを切り裂く。


「しまった!」


 気が付いた時にはもう手遅れだった。


 剣を手にしたククリは一瞬で高速から抜け出していた。


「……聖女様が目的とは。あの方には……誰も触れさせはしない!」


 そう叫んだククリは青白い光を残して消えていた。


 どうやら出し抜かれてしまったらしい。


「大丈夫かみんな?」


【大丈夫】


「だいじょぶ」


「そうか……だがやるなぁ。まんまと相手に情報渡しちゃったな。しかしあのお方か」


 少なくとも目的は完全にばれた。


 俺は、湖の砦に急ぐことにした。


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