パワードスーツは生身の人間には危険である
「と、とにかく。転移用のポータルを大急ぎで設置してみようか」
ちょっと大きい機材なので不安だったが、幸い荷物は無事転送されていた。
四つのポールっぽいものを立てて、ポータルの心臓部を中心に設置する。
完成直後は青白い光を発し始めたポータルだったが、俺はどうにも光が安定していないことに気が付いた。
「あ、あれ? なんか調子悪いな」
『警告。転移が妨害されている可能性があります』
「それってつまり? 感づかれてる?」
俺がこちらにやってくることはできたのだ、なら何かしらの対策を講じられた可能性があった。
『転移を感知できる方法があるのならあるいは』
「可能性は……なくはないな。ベルジュ君だってやってたんだ」
聖剣ってものがどんなものなのかわからないが、少なくとも転移ポータルと同じことができる能力があるのは間違いない。
これはちょっと早まったかもしれないと、俺は心の中でベルジュ君に謝っておいた。
「しかし……じゃあこれ以上はコレ使わない方がいいかな?」
『推奨はできません。高確率で不具合を生じる可能性があります』
「ぬぉぉ。そうかー……すまんリッキー。せめて俺が休業のプレートでも下げていれば」
今更どうしようもないが、後は助っ人が、うまくやってくれることを祈るだけだった。
「しかたがないか……こうしちゃいられないな。まずはどうするか?」
とにかく何か動かねばと考えていると、ニーニャがベルジュ君の目的地を教えてくれた。
【たぶん、湖の砦という場所が目的地】
「湖の砦? ……ふむ。ひとまずはそこに行ってみるか?」
というかそこしか当てがないのだから行くしかない。
うまくいけば、捕らわれの聖女様についてなにか情報が得られることを期待したい。
となるとさすがに、パワードスーツを着たままじゃ目立つだろうか?
いったんパワードスーツを脱ごうかと考えていると、いきなり耳元で警告音が響いた。
『警告。転移反応を感知』
「!」
俺は首筋に鳥肌が立ち。とっさにニーニャとトシを突き飛ばしてしゃがみ込んだ。
すると今まで何もなかったところから、青白い刃が飛び出して、今俺達がいた位置を通り過ぎていた。
「勘がいいのね、侵入者さん―――」
「!」
そしていきなり知らない女の声がする。
俺はとっさに、拳を振りまわした。
ただのけん制である。
当たるわけもないと思っていたが、意外なことに手ごたえがあった。
「うきゃぁぁ!」
「ん?」
悲鳴が上がり、人が倒れたような音がする。
恐る恐る音のした方向を見ると、そこには青白く光る剣を持った二十代後半くらいの女性が鼻血を出して白目をむいていた。
人間の様で、ベルジュ君と同じ金髪だが、服装は神父さんが着るようなカソックを思い起こさせる黒い衣装である。
「……まぁ。攻撃してきたっぽいし。結果オーライだよな?」
店員達の視線もなんだか動揺していたけれど、パワードスーツの拳は無造作でも喰らえば、相当に効きそうだった。
とにもかくにも貴重な情報源っぽいのが向こうから飛び込んできたことには違いない。
「えっと……ニーニャ。彼女を縛ってくれる?」
【わかった】
「オレ、吊るすか?」
「いや、吊るさなくていいや。でも武器は放しておいて」
店員達はあっさり頷き、テキパキと作業をし始めるあたり、ちょっと物騒になりすぎてるなと反省した。