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地下の拠点

「聖都という都は天変地異で常に激しく揺れ動く大地から切り離すことでいささかの猶予を手に入れた都市なのです。覚醒した聖剣による様々な能力によって町を守護し、この神秘の都を形作っています」


「聖剣ってそんなこともできるのか! 今度王都でやってみていいか?」


「やめてくださいな勇者様。城がなくなってしまいます」


「それはだめだな!」


 シャリオに軽く止められて、からからとツクシが笑う。


 ベルジュは島の黄金の都とはかなり趣が違う入り組んだ地下を進んでいた。


 島の地下は建物が上へ下へと無秩序に建ち並び、通路のような裏路地のような細かな道が迷路のように広がっている。


 人の姿は時々見かけたが、こちらを見とがめるということもなく、どこか生気がない。


 それはまだ、聖都という場所がまったく安定していないことを意味していた。


「元の世界が危険だったこともあって、聖都の市民は安全のために地下で生活しています。地表の黄金都市は、まだ比較的元の世界が安定していた頃の名残なのだとか」


 元は聖都も地上にあり、繁栄を極めていたという。その頃のことをベルジュは知らない。


 しかし生まれる前から存在した黄金の都は、眩しいものとして記憶にあった。


 するとシャリオさんが眉をひそめた。


「ではこちらがメインの居住区ですのね。大丈夫ですの? 監視の目は少ないと言っていましたが?」


 彼女の目はすれ違う人々を警戒していたが、ここにいる人間は非戦闘員で、王都を離れていた短期間で改善された様子がないのは見ればわかった。


「ええ。聖剣の力を持った聖剣士は、モンスターを確認して以降は主に黄金の都にいるのであります。だから警備は主に地表の方が厳しいのです」


「そうですの?」


「かく言う私は地下の生まれでして、見ての通りごちゃごちゃいしていますから完全に管理されているとは言えないのであります」


 そして今から案内する場所は、昔住んでいた家だった場所だ。


 空き家のはずだから、隠れ家としては都合がいい。


 聖都は新世界にやってくるまでに多くの犠牲を払っている。そもそも人が足りず、様々な機能がマヒしているのは当たり前だ。


 道なき道を進み、薄暗い場所にある隠れ家のような小屋は、今もまだそこに存在した。


「……ここであります」


 中を覗き込んでみたが、誰もいない。


 薄汚れたテーブルが一つと、箱がいくつかあっただけだった。


「ここをとりあえずの拠点にしようと思うであります」


 此処ならば周囲の地形も熟知している。


 仮に見つかったとしても、逃げおおせる自信があった。


 家の中に三人を招き入れて、ベルジュはテーブルのほこりを簡単に払った。


「それでここからの事なんですが、ひとまず我々は聖都中枢。湖の砦を目指さねばなりません」


 そう言って、準備していた地図を広げて島の中央にある建物を指さすと、ツクシさんはぐっと身を乗り出した。


「突撃だな! 突撃しかないな!」


「いえ! 突撃みたいなものかもしれませんけど、忍び込みましょう!」


「……そうなのか?」


 めちゃくちゃ残念そうなツクシさんは頼もしいような、無謀も甚だしいような危うい人だった。


 ベルジュは焦りながら慎重に理由を説明した。


「湖の砦は、聖剣を生み出す湖を守護するための場所で、聖剣士も常にたくさんいるのです。そして厄介なことに聖女様が封印されているというのが、中心に位置する湖の間なのであります」


「それが貴方たちの城のような場所ですのね? そこを破壊すれば、混乱を起こせるのでは?」

しかしいきなり物騒な提案をするシャリオさんの言葉にベルジュは全力で首を振った。


「いえいえいえ! ダメであります! 湖はこの聖都にいる民の心のよりどころなのであります! だからこそ……湖の間に出入りするのは簡単なことではないでありますが……一応少しだけ手助けできる準備があります」


 そしてベルジュはいつも肌身離さず持っていた物を取り出して見せた。


「湖の間のカギであります」


「へぇそんなものを盗み出していたのですか、やりますわね」


 感心した風に鍵を覗き込むシャリオさんに、ベルジュはちょっとだけ得意になった。


「これでも、昔は聖女様にお仕えしていたのであります。これは複製した物でありますが」


 聖都にいた頃に鍵の型を取り、外に出てから鍵を作り直した。


 このことはベルジュしか知らないはずである。


「しかし湖の間は、聖都最強の聖剣士が、常に守護しているのであります。彼らは三聖騎士と呼ばれていて、鍵があったからと言って簡単に聖女様を助け出せません」


 彼らがいるからこそ、ベルジュは助けを求めた。


 聖剣士にとって、その序列は絶対だった。


 神秘の湖から生まれた聖剣は若い世代ほど強大な力を秘めている。


 そして彼ら三人を上回る聖剣を持つのは聖女様ただ一人だ。


 この未知の世界で勇者と呼ばれる聖剣使いが、いったいどれだけ対抗できるのかは未知数だが、ベルジュだけでは抗うことさえできはしないのはわかっていた。


「これからは協力してお願いします。三聖騎士は本当に強敵ですので!」


 ベルジュはツクシさん、シャリオさん、ニーニャさんを順に見回して、意思を確認する。


 すると、ニーニャさんがスッと手を上げて言った。


「……別行動をさせてほしい」


「……」


 ベルジュはさっそく先行きが不安になった。


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