その頃俺、 大門 大吉は
ベルジュ君の聖剣の力でテレポートしてしまった四人を見送り、俺は急いで店に戻った。
此処ならだれにも見られずに、呼び出されればいつでも出撃可能である。
店の中に入ると、リュックを持ったトシが俺を待ち構えていた。
「トシ、今回は留守番頼むぞ。暴走の原因がわかっても。まだ戦いに行くのはきついからな」
「……わかった」
頷いたもののちょっと不満そうなトシは、現在暴走を制御するべく特訓中である。
「そしてこれは……受付見習い看板だ。首か受付に引っ掛けておいてくれ」
そしてもう一つ手渡したのはお手製の『見習い期間中』とでっかく書いたプレートだった。
トシからはやんわりと脇に置かれてしまったが。
「まぁ、留守番も必要だから……今度また荒野で特訓もしような」
最後のつけたしは結構な覚悟を決めて言ってみると、トシの目は思ったより輝いていた。
「……わかった!」
「……うん。約束」
ちょっと勢いで命を懸ける感じの約束をしながら俺はすっきりとまとまったリュックを受け取り、ひとまず椅子に腰かけて今度は腕輪に話しかけた。
「さて……予定外のことも起こったが、どうだ? テラさん? あいつらが移動した場所に俺も行けそうか?」
まずはあの妙な転移がすでに予想外だった。
最悪テレポートできない可能性もあると踏んでいたが、テラさんの判定はいかに?
返事を待つと、腕輪からテラさんの声が聞こえた。
『可能です。一瞬でかなり長距離を移動していますが、緊急用ホイッスル二号を用意して正解でした。使い切りタイプですが、長距離での使用が可能です』
「まぁ一号は元々効果範囲が狭いってことだったからなぁ」
ショートワープではまずかろうと急遽二号を製作してもらったわけだが、強度的にはまだまだ改良が必要なようだ。
『実は一号も使用は三度が限界です』
「知らなかった……そうかー。ああ、でも逆に助かったかもな」
ひょっとすると一号はシャリオお嬢様の手に渡ってしまうかもしれないが、回数が制限されるなら願ったりかなったりだ。
何せシャリオお嬢様にはパワードスーツを着て出会った時には必ず妙な目に合わせているからだ。
「……フォックスの時もシャリオお嬢様、気絶させちゃったしな。一度だけでゾッとする。やめようこの話は、これからの手順の確認でもしておこうか」
ブルリと身を震わせて話を変えると、テラさんはあらかじめ決めておいた手順を復唱した、
『呼び出しがあり次第転移し、聖都内部に転移ポータルを設置、非常時の逃走経路としてください。なお状況次第では転移後爆破も視野に入れましょう』
「うーん。転移ポータルはなるべく壊したくはないけどなぁ。やっぱそうするべきだよな」
むしろ俺の王都での一番大事な役割は逃走経路の確保だろう。
最悪の最悪として、ベルジュ君が敵に回る事すら考え、逃げ道だけでも確保すればかなり違うはずである。
そういう意味ではシャリオお嬢様の参戦は予定外だが、聖都での活動は極力パワードスーツで過ごして、ダイキチと結び付けないように出来れば、たぶん大丈夫。
まぁそれは色々とばれかねないので、本当に最後の手段として取っておきたかった。
『その後はおそらく聖女奪還となりますが、不確定要素が多いので臨機応変にとしか言いようがありません』
「まぁ。人助けってのはヒーローっぽくていい。せいぜいベルジュ君の手伝いを頑張るしかないよね。出来る限り引っ掻き回して、隙を作りたい。了解だ……まぁ準備はできる限りしたつもりだ。あとは呼び出すのを待つばかりってことだな」
『肯定します』
うん。予定通りである。
しかしここから先一筋縄ではいかないはずだから、気を引き締めていく。
……。
俺はソワソワと、体を動かす。
テーブルの下で貧乏ゆすりをしそうになったので、意識して止めて、そしてふと尋ねた。
「……なぁテラさん」
『なんでしょう?』
「いつ頃呼び出されると思う?」
『不明です』
「……まぁそうだよな」
まぁ時間が決まっているようなことでもなし。しかし近々呼び出されるはずである。
でも暇な俺は傍らにいる、トシを見る。
「えっと……じゃあトランプでもする?」
「う?」
そう提案するときょとんとするトシにまずはババ抜きをレクチャーすることにした。