聖都
光のゲートを抜けてやって来た町は、黄金にあふれていた。
そこは聖剣の移動で最初にやってくる、「港」と呼ばれる広場だ。
広場を囲む建物は、全て黄金で出来ていて、このルートでやって来たものは、さっそく聖都の偉大さを思い知らされる。
眩い光に目を細め、ベルジュは帰ってきた都を眺めていた。
そして自らが招き入れた人たちが、自分たちの都を見て驚く様子を微笑ましく感じた。
「なんということでしょう……これが聖都?」
「金ぴかだな!」
「……すべて黄金?」
驚く協力者にさっそくベルジュは都市の解説をした。
「はい! 黄金の建物はすべて、聖剣の能力によって作られているのであります。すべての物質を黄金と化し、自在に操るのは聖都の三聖剣士グラディオス様の能力です」
そう言うと、赤毛の女性シャリオは、ベルジュの聖剣をちらりと見て尋ねた。
「それでは貴女の聖剣の能力は長距離を移動することなのですか?」
「いいえ違います……。私の聖剣はまだ覚醒していないので。聖都へ戻ることは聖剣の基本的な能力ですよ」
「そうなんですの? 聖剣を使う者は皆このようなことができるんですね」
「はい。聖都に戻ることしかできませんけどね。いつか真の能力に目覚める事が私達聖剣士の目標なんであります」
「そうなのか! 聖剣すごいな!」
同じ聖剣使いであるはずの少女、ツクシが素直にほめていたが、ベルジュには違和感があった。
なぜならツクシの持つ剣もまた、聖剣であるはずだからだ。
「勇者様もできるのではないですか? その聖剣のルーツは我らが世界ではないかと思うのですが?」
しかし尋ねると、とてもあっさり首を横に振られた。
「うんにゃ? できないぞ? ちょっと違うんじゃないか?」
「そんなこともあり得るんでありますか? でもそうか、異世界。……もしかしたらその聖剣は私達のそれとは似て非なる物なのかもしれませんね」
ベルジュはそう言いながらツクシの剣を眺めため息を吐く。
その剣から感じる力はすさまじいの一言なのだが、ここは異世界、似た性質の何かだという可能性は否定できなかった。
だが、そんなことはどうでもよくはある。
聖剣の勇者の実力が本物か否か? それだけが重要だった。
「それにしても、移動して早々戦闘も覚悟していましたが、拍子抜けですわね。検問なようなものはないのですか?」
「ええ……この港によそ者がすぐに入ってくるのは難しいので。私のような覚醒してない聖剣士が数名程度問題が起きた時に出てくるくらいです。それに、今は転移したばかりで人手が安定していませんから」
その上、聖剣士達はこの世界に転移してから周囲の調査をしているはずだ。
そしてベルジュはその調査の途中で行方知らずになり死んだことになっているはずだった。
「では皆さん。ひとまずここから離れましょうか」
まだ警戒されていないと思うが、聖都の中に入れば油断できない。
ベルジュは連れてきた面々を聖都の中に引き入れることにした。
「まずは下に行きましょうか。そちらの方が監視の目がないはずなので」
ベルジュは適当な階段を探し、そこから言葉通り下を目指す。
「なんだ? この都市地下があるのか?」
「……面白い」
あははと明るく笑うツクシと褐色の肌を持つ少女、ニーニャは呟く。
ならばきっと彼女達にはこれから見る景色も喜んでもらえるとベルジュは確信した。
とんとんと階段を下りていくと強風が吹き、さっそく光が差し込んで外が見える。
そして見えた瞬間、案内した三人は息を飲んで固まった。
なぜならば、そこは空の上だからだ。
雲海を眼下に望み、ベルジュは心なしか得意げに語る。
「驚きましたか? この島はまるごと空中に浮かんでいるんです。『空中黄金都市』それが聖都なのですよ」
そしてそれがこの聖都の古からの呼び名だった。