撤収します
俺が何とかゴミ山にたどり着くと、そこではリッキーが大慌てで両手を振っていた。
ああ、とりあえずこれで一安心だ。
そう考えた瞬間、体から今度こそ力が抜け、着地したとたん崩れ落ちた俺にリッキーは慌てて走り寄ってきた。
「おおい! ど、どうだった! っていうか血まみれ! あ! でも目は光ってる! 意識はあるね!」
「……お、おう」
竜の返り血やらなんやらでぐちょぐちょの俺にリッキーはドン引きだったが、俺は回らない頭で一言呟いた。
「つ、疲れた……」
そして期待の眼差しを向ける友人に俺は戦果の報告をした。
「でも……! 倒したぞドラゴン!」
「ほ! ほんとに!?」
「ああ! すごいぞこのスーツ! ドラゴンにも負けない! パワーもスピードも! どれをとってもやばい!」
「僕の装甲は!」
何よりもそこが気になるらしいリッキーに答えたのはテラさんである。
兜には外部スピーカーも内蔵してあった。
『素晴らしい効果でした。ドラゴンの炎をあそこまで見事に防いだのは貴方の装甲の効果でしょう。炎のダメージをああまで完璧に防ぎきるとは驚きでした』
「ああ! 熱への耐性は特別気を使ったよ! でもドラゴンの炎を防いだか……僕の装備が……うぅ~最高だ!」
両手を上げて喜んでいるリッキーだったが、俺は今更ながら重要なことを思い出してはっとした。
「と! そうだ! 喜んでばっかりもいられないんだった! 俺達より先にドラゴンと戦ってるやつらがいたんだよ……」
「へ? なんだいそれ?」
森の危機は去ったがむしろ俺達の危機はこれからである。
俺にはドラゴンを討伐に来ていた人間に少し心当たりがあった。
倒れていた人間は立派な鎧を着ていた気がする。
そして単身ドラゴンに挑み、渡り合える者など限られていた。
「たぶん王都から騎士団が来てた……その戦いに俺は割り込んだみたいだ」
そう言うとリッキーは驚いて青くなった。
王都の騎士団といえば強大な魔法を操ることで知られている強力な軍隊だ。
そしてそのほとんどを貴族の特権階級で構成された権力者でもあった。
「へ? それって騎士団の獲物を横取りしたってこと? そりゃ、まずいよ」
「……やっぱまずい? でもほとんど気を失っていたみたいだったんだけど」
「意識を失っていない人数は?」
「確認できただけでは一人……たぶん」
「いるんじゃないか!」
「いるなぁ……だが安心しろリッキー。俺はちゃんと顔を隠していた!」
ほら役に立ったとヘルメットをたたくと、勝ち誇る俺にリッキーは言った。
「その鎧自体が恐ろしいインパクトだよ!」
言われてみればこの鎧ほど印象的な物もそうないだろう。なにせかっこいいし。
「それもそうだけど……まぁ、よしとしておこう! 急いで地下に隠せば問題ない!」
「もう! やばかったら引き返してきなよ!」
リッキーはそう言うけれど、どう考えてもあの土壇場でそんなことできるわけもなかったんだからしょうがないと思う。
「俺もあんまり余裕なかったの! 相手ドラゴンだぞ? すっげーでっかいんだ!」
「わかるけど! ああいう人達もその気にさせたらおっかないんだよ!」
言ってることはよくわかるが、今さらである。
早いところ諸々地下に隠さねば。
俺達の撤収作業は実に速やかに行われたのだった。