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ヒルデ副長とお話

「じゃあ行ってらっしゃい。くれぐれも怪我のないように」


 光の円をくぐって、中に消えてゆく一行を俺は手を振って、見送った。


 光のゲートは全員が中に消えた後にすぐに消えてしまう。


「……」


「……」


 ただ後の状況をちょっと甘く見ていたかもしれない。


 副長のヒルデさんと二人取り残されてしまった。


 どうしたものかと考えていたが、先に話しかけたのはヒルデさんだった。


「……何か企んでいませんか?」


 それにしても一言目の鋭さが尋常じゃなかった。


 俺は心の中で冷や汗をかくのを感じながら、にこやかにに切り返した。


「え? なんでですか?」


「思ったよりもすんなり断ったのがどうにも引っかかりまして、どうにも貴方らしくない」


 心なしかジトっとした視線を向けてくるヒルデさんに反射的にシャキッと背筋が伸びてしまった。


「いえ、素の能力が話にならないのは身に染みているので」


 少なくとも共通認識として、俺はしぶとくはあるが戦うには貧弱という前提を出してみると、ヒルデさんの視線がそれた。


「……そうですね。私もそれが分かっていて、無茶な頼みをしました。わかっていたからこそ、貴方を王都から遠ざけたというのに」


 ヒルデさんにしては戸惑いが見える口調を意外に思いながら、しかし、決してヒルデさんに言われたからだけで王都を離れたわけではない。


 少なくとも俺自身はそう思っていた。


「いえ、どちらにしろ、俺は王都を離れていたと思います。きっかけをいただけて感謝していますよ」


「……そうですか」


 ヒルデさんは口元に手を当てて俺に視線を戻す。


 何か言われるんだろうかと身構えていたが、ヒルデさんは考え込むようにほんの数秒間を開けてから、言った。


「そうですね。そうだったかもしれません。でも貴方はここに戻って来た。何か、変化があったのでしょうか?」


 これまた困った質問である。


 色々あった。もちろんこれまたお店を出すという他人からもらったきっかけがあったからではあるのだが、どうにもヒルデさんの質問は、もっと深い意味があるような気がして仕方がない。


 俺は頭をかいた。


「……どうですかね。でも、いつかは戻ってくるつもりだったと思います」


「それはなぜですか?」


 ただ妙なことを知りたがるヒルデの質問には、俺は答えを持ち合わせてはいない。


「……なんででしょうね? 俺にも見当がつかないで困ってますよ」


 咄嗟にそんな気がしたから言っただけで、別に深い意味があるわけじゃない。


 なのにヒルデは笑って言った俺を追及はしなかった。


「そうですか。でもいずれ答えは出るのでしょう。せめて健やかに過ごせるように願っています。協力なら惜しみません」


「……あまり気にかけすぎると、苦労しますよ。俺だって好きにやってますし」


 ただでさえ苦労を掛けているのに、これ以上協力してもらってもいいのだろうかと、一応気を使ってみたのだが、その時一瞬見せた表情は、ヒルデさんにしたらとても珍しい穏やかな笑みだった。


「貴方たちはそれでいいんです。だからこそ協力するんですから」


 ギクリと俺は固まる。


 あんまり去り際に含みのありそうなセリフを付け足さないでほしい。


「それでは、これで失礼します」


 そのまま立ち去るヒルデさんを見送り、俺は急いで駆けだした。


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