ただいま準備中
いったん解散した俺達は、各々準備を整えることになる。
出発は二日後。
俺は秘密基地にパワードスーツの調整にやってきていた。
「さて……秘密の準備はどんなもんだろうなテラさん?」
事に備えるのにやりすぎということはない。
しかし今回の改造は、威力を押さえることに重点を置いていた。
『順調です。改善点は前回試作した大出力のエネルギーボールをより低出力で連射できるようにしました。片手での運用も可能です』
「……素晴らしい。正直前回は助かったけど、アレは中々使いどころが難しいと思っていたんだ。爆炎の上がり方とか殺意しか感じなかった」
『戦闘とはそういうものでは?』
「いやいや、手加減も重要な要素だよ? そんな誰もかれも殺す気で飛び掛かるようなマッドな思考はしていない」
『そうですか。戦場での生存率は高まると思われますが?』
「そ、そうかなぁ。やっぱりテラさんの世界は思ったより殺伐としてない?」
『高度な文明というのはそれだけ摩擦も大きなものです』
「そっかー。最終的には平和になってほしいもんだけどなぁ」
中々どんな世界もままならないものである。
まぁ今回の場合もそういういざこざが発端と言えば発端だろう。
間違いなく以前の忍びの里をしのぐ危険の予感に、リュックサックに荷物を詰める手にも力が入った。
「なんだか困った感じになって来たなぁ! ホントどうしようか!」
【なんだか楽しそう?】
「まぁ間違いなく楽しんでんな」
「……」
いつの間にか秘密基地にやってきていた、ニーニャとマー坊の鋭いツッコミが入った。
どうやら変なところを見られてしまった。
俺はいったん準備の手を止めて、ニーニャとマー坊に向き直る。
貴族向けの執事服姿のニーニャの周囲には、ふわふわと黒い物体が浮かんでいた。
心なしかその表情は困った子供を見るようだった。
「うおっほん……いやいや俺だって楽しんじゃいないさ。準備に余念がないだけだとも」
だがそう言った俺をクケケと黒い球体が笑う。
「その割には頬がにやけてたがな……しかし、王都の連中の頼みを引き受けるのか?」
そういえば最終決定はニーニャ達に伝えていなかった。
やれやれとミニサイズの手まで出して困ったポーズをしたマー坊には悪いが、少し訂正せねばならなかった。
「いや、断ったよ?」
「は? いや、完全に引き受ける流れだったろ? なら何で荷物の準備なんてしてんだよ?」
「そりゃあ……断った上でついていくからだよ」
「……どういうことだそれ?」
マー坊は?マークをわざわざ作るが、理由としては簡単だった。
「だって……ツクシ達と共同作業じゃ、パワードスーツ使いづらいし」
部屋での話では確かに断る流れだったが、俺はツクシとヒルデ副長にはもう返事をしている。
断った時、副長とツクシが心なしかガッカリしていた気がしたが、もちろん俺の方から代案だって出してきた。
それを聞いたヒルデ副長からもGOサインはいただいている。
「だが完全に手を引くわけじゃない。俺の代わりに旅に出るのは―――ニーニャ! 君だ!」
【私?】
驚くニーニャに、俺はまとめた荷物と、そして新しいホイッスルを出してチャラリと見せ、笑う。
「そう。これぞ召喚大作戦だ」