そしてヒルデ副長は準備を始める
俺はひとまず部屋の入り口で話をするのもどうかとヒルデさんを部屋の中に招き入れ、椅子を用意する。
「いいんですか? そんなこと言ったら本当に行っちゃいますよ?」
そして改めて尋ねると、ヒルデはやはり肯定した。
「知らないふりをしたところで意味がないでしょう。その国家とやらがどの程度の規模かはわかりませんが、少しでも情報があるに越したことはありません」
おお! っと行きたくてうずうずしているツクシがグッと拳を握っていた。
「……そうですね。でもツクシ、絶対暴れますよ? そうでなくとも荒事必死ですし」
「その、男の子だか女の子だかわからない子供の話は聞かせていただきました。もちろん勇者ツクシならば問題でしょう。しかし転移してきたばかりの彼らに、こちらの情報がそろっているとも思えません。まぁ、場合によってはちょうど良いです。せっかくなので最高戦力までつまびらかにして来てください」
「む、無茶言いますね」
「いつものことでしょう? それに今回は内情を知っている者がいるだけ、いささか優しいくらいです。出かけている間の手回しは私がしておきましょう」
説明をしてくれているはずのヒルデ副長は、どうにも饒舌すぎた。
なんとなくツクシが行く理由を無理やり頭の中で並べ、そのまましゃべっているような気がしないでもない。
そう思ってヒルデ副長を見てみると……あっ。目の下にクマ発見。
タイミングからして、かなり大急ぎでここまで来たのは間違いない。
モンスターを狩りに行き、救助した身元不明の謎の人物をツクシが連れて行ってしまった。
そんな話を部下から聞いてすっ飛んできた……と、ここまで想像した。
なんか外れてない気がする。
「……何かできることがありますか?」
思わず俺はそう尋ねると、ヒルデ副長は言葉を切って、俺の顔を眺めた。
「……協力していただければ助かります。あまり無茶なようなら軌道修正を。私では勇者様は止められません。止めても行くなら送り出した方がいくらか心労が少ないです」
「……ほら、ツクシ。言われているぞ?」
「うーん……でも、止めてもいくからな?」
首をかしげてそう返事をするツクシを見ると、思った以上にヒルデさんには苦労を掛けていそうだった。
「ふむ……すごいなお前」
「だろう! 困った人は助けなきゃな! 僕も頑張るぞ!」
「……うむ」
ヒルデさんは何でも完ぺきにこなすイメージがあったのだが、それでもツクシの行動力の前では持てあますところがあるということか。
ほんの一瞬、ヒルデさんの眉間にしわが入ったが、それも一瞬のことだった。
「そういうわけなので本当にお願いします。……とにかく状況を見極めてください。聖女を救出すればことが収まるのか、場合によっては戦闘もやむなしですが、そうした場合は徹底的に」
「徹底的にですか」
「ええ。戦力は高く見積もってほしいですからね。心が折れればなおよしです」
戦闘面でヒルデさんはとても王都の軍人らしい。
今もまだ、頭を下げ続けているベルジュ君を見て、俺はため息を吐いた。
「……ベルジュ君。行っていいってさ。よかったな」
「……! ありがとうございます!」
パッと表情を輝かせたベルジュ君だが、果たして今後どう転ぶのかは運しだいというかツクシしだい。
なら俺はどう頭を突っ込もうかと、頭をひねった。