探し人
「えーベルジュ少年?」
「ベルジュで結構」
俺はちょっと気まずくなってしまったが、ひとまず空気は無視することにした。
「……ベルジュ君。どこから来たのかは知らないけど、モンスター大変だったんじゃないかい?」
「ええ、ここに来るまで化け物には何でも遭遇しました」
「ああ、そりゃ結構しんどい道を通ったっぽいなぁ。王都が管理してる土地は定期的にモンスター狩りをしてるんだけど」
だからこそ最小限の護衛で、馬車で旅ができるくらいの安全性が保たれている。それ以外のルートになれば危険度は一気に跳ね上がるだろう。
ついでに言えばツクシが狩りをしていたのなら、その場所は特別強力なモンスターがいたはずだった。
「なるほど。そういう事情でありましたか。しかし私も聖都の聖剣士。腕に覚えもありますので」
「聖剣士っていうのは聞いたことがないな」
「そ、そうですか。やはりここは新天地なのですね。……そうだ、これをご覧いただければわかっていただけるかと!」
そう言うとベルジュ君は、先ほど収めた自分の剣を鞘から抜き放った。
俺とニーニャは反射的に身構えたが、すぐにベルジュ君の持つ剣の刃が青白く光り始めた。
「剣が光ってる……これは魔法?」
「魔法? ではないですが、これは聖剣そのものの光ですよ。我らが聖都は聖剣国家です。聖剣は持ち主を選び、力を与えます。そしてこれが私の聖剣です」
なるほど、聖剣と来たか!
そう言われれば、なんとなく神々しい光を放っている気がする。
そして聖剣と言えば、ツクシも使っている不可思議な力を宿す武器でもあった。
「おお……これはこういう武器なのか。いいなぁ……俺にも使えないかな?」
「それはどうでしょう。聖剣は持ち主が持たなければただの棒以下であります。木の葉一つ切ることはできませんから」
「うわーセキュリティしっかりしてるなぁ」
なるほど、ベルジュ君の聖剣もそうなのか。残念。
自分専用というのはテンションが上がりそうだから、否定はすまい。
だがそれはともかくやはりこのベルジュ君はそれなりの戦闘能力を備えている可能性は高いか。
問題はそんな彼が、武器を携えこんなところで何をしていたかである。
「うむ……ではベルジュ君。その聖剣士の君が何のために旅を?」
そう尋ねるとベルジュ君は目を伏せて、声のトーンも一段落ちた。
「……実は、ある人を探してここへ来たのであります」
「人探しか」
「はい。少々思うところがありまして……私は聖都を逃げ出してここに来たのであります」
「うーん、脱走兵かー……」
なんだかどんどん聞いてはいけない話を語り始めたベルジュ君である。
キュッと唇を噛んだ彼はずいぶんはかなげな印象だった。
「私は、聖都の在り方に疑問を抱きました……そして逃亡中にある噂を耳にして、この王都を目指したんです」
「噂か……こっちの事情もよくわかっていないうちから、ずいぶん頼りない根拠で命かけたな」
「それでも……私はすがるしかなかったのであります」
涙目のベルジュ君だが、俺にはそういう気持ちはよくわかる。
やりたいことがあるけれど、そこにたどり着くまでの道筋が不明瞭だと、死ぬほど心細いだろう。
俺もパワードスーツが見つかるまでのことを考えると胸が痛んだ。
「それで……誰に会いに王都へ?」
ほんの少しだけ共感してしまった俺は、探し人の手伝いくらいはしてもいいかなって気になった。
そう言った俺の心情を察したのか、パッと顔を上げたベルジュ君は探し人を口にした。
「魔王を打倒したという聖剣使い……勇者であります」
「!……へー、そうなんだ」
しかしどうやら探す必要すらないらしい。
自然と俺とニーニャの視線はツクシに集まった。
つられてベルジュの視線もツクシに向く。
「? お、そうか!」