とある依頼
俺は店の一室で、店の帳簿整理に奮闘し、ある結論にたどり着いた。
「うーむ……中々繁盛だな」
うんうん横で高速で頷いているいるのはトシである。
「お? 帳簿読めるのか?」
持っていた帳簿をちらりと見せると、トシはかくんと首をかしげた。
「わかってないか。うん、まぁおいしい夕食が食べられそうだってことだよ」
「おお!」
目を輝かせたトシだが俺もここまで繁盛するとは思わなかった。
強気の価格設定にもかかわらず、売り上げは順調に伸びている。
軽食で稼いでいたこともあったが、まさか家電がこんなに早くそれを上回ってくるとは予想外だった。
物珍しさもあるのかもしれないが、定期的に買いに来る顧客もいるようだし、この先便利だということになれば定期収入につながる可能性もあるだろう。
「トシも最近は荷物運びとかよくやってくれてるしな。……それにこの成功はニーニャの奮闘あればこそか」
そう呟くと俺の向かい側に座っていた、ニーニャがむふんと胸を張る。
一応電化製品が主力になればと思ってはいたが、こっちの世界の人間には、得体のしれない商品だ。
目玉商品が、きちんと目玉商品として機能するとは思わなかった。
「うん。かなり貯金も増えてきてる。パワードスーツの開発費にも十分か?」
当初、店を持つ目的はそれだったはずだ。
もっと長い目で見ていたが、思ったよりもずっと早く事が進んでいる現状を考えると、方針も考え直すべきなのかもしれない。
「うーん、お店辞めちゃおっか?」
【……!】
「……!」
だがそういうと、ニーニャは愕然として蒼白になり。トシは高速で首を横に振る。
「そ、そうか? まぁ冗談だよ」
さてどうするか?
思いがけずに店員の士気が高いことも判明したし、もう少し慎重に考えた方がよさそうである。
そんなある日、一つの依頼が俺達の店に舞い込んできた。
「ご協力いただけるかしら?」
依頼をしてきたのは、シャリオお嬢様だった。
そして依頼されたのは俺……ではなく、ニーニャである。
彼女の持ってきたのは商品の依頼というわけではない。モンスターの討伐だった。
「ニーニャさんのことは聞いています。今回目撃されたモンスターは少々骨が折れそうなのですわ。貴女の力を貸していただきます」
【……】
すげぇ困った顔をしてニーニャがこちらを見ている。
しかし、ニーニャはその能力含めて王都に残留することを許されている。
例えば手が足りない時にお呼びがかかることもあるだろうとは思っていたが、騎士団が最初とは思わなかった。
「ええっと、ずいぶん急な話ですね」
俺が話に割り込むと、シャリオお嬢様は頷く。
「ええ、モンスターは待ってはくれません。今回は騎士団も出払って、人手不足なのですよ。……それに今回のモンスターは特殊な個体なのです」
「特殊な個体?」
なんだか嫌な予感のする前振りである。
「魔王に支配された残党と言えばわかりますか?」
シャリオお嬢様の言葉に再びニーニャがすげぇ困った顔をしていた。
でもこれはなんとなく、中にいるマー坊の方だろうなってそんな気がした。