パワードスーツについて
「うむ……改めてみてみると、最初からずいぶん強化されたもんだな」
最初は骨組みからスタートし、リッキーの外装が付き、俺のスマホで通信機能が取り付けられ、謎のスライムバッテリーが埋め込まれた籠手からは必殺技が飛び出た。
最近では二段ジャンプできる忍者印の靴底入りときている。
そして忘れちゃならないのが、ドラゴンの呪いを宿した赤いマフラーだ。
これはあれだ、なんというか……。
「完全にゲテモノだな。何とか外見上パワードスーツの体裁を整えられているのが奇跡のようだ」
『外見はほとんど変わっていないのですが、おおむね同意します』
俺の独り言に突然入って来たテラさんに、俺はなんとなくジト目になった。
「……掃除はいいのかテラさん?」
『はい。この程度を並列に対処できない、生物の貧弱な処理能力と同列に並べられても困ります』
「……テラさんや? ひょっとして人類に反逆とか起こして、ここに飛ばされたとかじゃないよね?」
『そのようなことはありません。私は人類をサポートするために存在する、基地管理システムです。人類の友達』
「へー」
うーむ、なんとなくマニュアル臭くて信憑性に欠けるとか思ってしまった。
まぁどっちでもいいのだが、テラさんが楽しそうで何よりだ。
それにせっかくの機会だし、俺は素直にパワードスーツについて絶賛した。
「二段ジャンプも思ったより形になっててビックリしたわ。あれ靴底のせいだろ?」
一応テラさんとリッキーとでアイディアを出し合ってはいたのだが、ああまで見事に形にされると、俺としては感心しかない。
『はい、リッキー様に依頼し、金属製の靴底に、忍者の里より手に入れた呪符と同じ文様を刻み込んでいただきました。そこに先日いただいた特殊塗料を流し込み、コーティングを施しています』
「へぇーそれで機能したんだから大したもんだ。さすがリッキーだわ」
『はい。彼の能力は称賛に値します。特にリッキー印の装甲には目を見張るものがありますね。さすが、あの魔法使い達の戦闘能力を考慮しただけのことはあります。熱や冷気に高い耐性があり、気密性も素晴らしい」
「確かに。象どころかその数十倍はありそうな巨大生物に踏まれても俺、死ななかったしな」
『驚異的な防御力です。元々の骨格による恩恵も無視できないところではありますが』
リッキーの仕事を絶賛する一方でちょいちょいスペック自慢もはさんでくるテラさんだが、そこは俺も間違いなく嘘ではないのは実感するところだった。
でもそういえば、王都で鎧をつけている者はいるが、全身を鎧で包んでいるものはまず見ない。
しかし俺の方でこれだけ成果が出ているなら、そういうコンセプトの鎧が存在してもよさそうなものだが。
「なんでみんなこれやんないんだろうな?」
ついそう呟くと、テラさんに即答された。
『おそらく重いのでしょう。パワードスーツのアシストであまり感じないでしょうが、魔法使いの使う肉体強化では確実に動きを制限されます。受けて耐えるのは通常最後の手段で、当たらないのが一番です』
「……違いないね」
毎度毎度棒立ちで魔法を食らい続けたら意味がない。
魔法使いもやたらパワフルだと思ったものだが、考えてみれば確かに動きづらそうだった。
しかし俺としてはパワードスーツに関して何か語るとしたら、装甲以外にも押したい部分があった。
「でもさ。俺としてはマフラーを押したいね。これ意味わかんなくないか? なんでこれこんなに丈夫なの?」
少なくとも今までの戦いでは、汚れこそすれ、ほつれてさえいない赤いマフラーには何度も助けられた。
この際詳しい説明の一つでも聞いておこうかとテラさんに振ってみたのだが、テラさんは黙り込み、数秒考えた末に回答を導き出した。
『回答不能です』
「まさかの回答不能……マジかマフラー」
俺はパワードスーツの傍らに畳んでおいてあったマフラーを手に取ってみて、ちょっと不安になって来た。
「まぁ……深く考えるのはやめるか」
『賢明です。科学で解明できていないことも世の中にはあるものです。ましてや異世界ならなおさらでしょう』
「テラさん的にはそういう曖昧なの大丈夫なんだ?」
なんとなく気になって聞いてみたがテラさんからはもっともな意見が帰って来た。
『私も多少の柔軟性をもって設計されていますが、本来機械とは出来ることしかできないものです』
「……まぁ、俺からしたらテラさんも十分謎カテゴリーだもんな」
『御冗談を。私はきちんとした技術と理論によって生まれた産物です。妙なものとひとくくりにしないで頂きたい』
テラさんの表情は見えないが、きっと見えていたら不満そうなのだろう。
そうは言っても理解できないテクノロジーなんて魔法とどう違うのかと、ちょっと問い詰めたい気分にはなった。
まぁ、説明されてもわかる気は全くしないけど。