とある日の掃除
デッキブラシで、床をごしごしと磨き上げ、通路の泥を落としてゆく。
すっかり綺麗になった通路は多く、土砂の運搬も進んでいた。
「やっぱりトシの馬力が半端じゃないよな。岩がプリンみたいに砕けるもん」
とはいえ秘密基地の発掘に使える人材はたったの二人だ。
そしてトシは肉体労働以外をこなすには少々大雑把すぎる。
泥を落としたら設備のチェック。おおよそ壊れている設備の復旧も俺の大事な仕事だ。
動くようになる物もあるし、全然動かない物も当然ある。
時間はかかるが、地道にやっていくしかない。
ただ、掘れば掘るほど実感としてわかってきたことだが、この地下に埋まった建物は完全に軍事基地に近い代物のようで、かなり広大な建物のようだった。
居住区なんてものもあり、きっといつかのタイミングでは多くの人が生活していたであろう痕跡すら存在した。
テラさん曰く、全てが土砂で埋まっているのは、転移装置で基地そのものを地下の土砂と入れ替えたのだそうだ。
元々地上にあった基地は丸ごと地下に埋まり、その分の質量分の土が、さらに上から覆いかぶさった。
こうして地下にすっぽりと基地は収まったようである。
「おかげで何もかも綺麗に埋まってほとんど閉鎖されていたわけだが……破壊までされてなかったのは本当に幸いだった」
ガシャガシャと動かしていたブラシの手を止め、新しく出て来た部屋にバケツの水をぶちまける。
浮いた泥汚れが一掃されて出て来た床は今度はかなり広めのようだった。
「ふぅ……ひとまずはこんなところでいいかね」
俺は一息つきながら、この部屋が何なのか想像を膨らませる。
希望は戦闘用の機材だが、今は店をやっているのだから、居住スペースや倉庫でも十分にありがたい。すべては掘ってみてのお楽しみである。
なんにせよ今後もまだまだ面白いものが発掘されそうだった。
俺は本日の掃除を適当なところで切り上げ、やって来たのはパワードスーツを保管している部屋だった。
そこにはトシが大量の金属パーツを抱えあげていた。
テラさんが指示を出し、基地内の俺がため込んだものをわかりやすく整理しているらしい。
集めた荷物もだいぶん溜まってきたものである。
基地の中で発掘した物や、ゴミ山から拾ってきた物も多いが、大きな盾やパイルバンカーなど、見覚えのある大物も多数ある。
『スチームバンカーはすでにマスターが整備済みです。盾はほとぼりが冷めてから、修理してもらうとのことですので、奥にしまっておいてください』
「わかった」
『危険なものも多いので指示した物意外は触らないようにしてください。細かい部分はマスターの手が必要です』
「わかった」
俺が入って来たことは把握しているようだが、今は忙しそうだ。
「ふむ……頑張っているね」
ちょっと広げられても困る話題も混じっているから、俺は静かに部屋の中を移動して、現在調整中のパワードスーツを見に行った。