表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
パワードスーツ起動編
14/462

起動

 秘密基地から出て、俺達は移動用の荷車に積まれた箱を見上げていた。


 箱を見たリッキーは怪訝な表情を浮かべ、こう言った。


「ここって町はずれのゴミ捨て場だろ? 箱に詰めてまで隠す意味はあるのだろうか?」


「あったりまえだろ? 人に見られたらどうするんだよ?」


「誰も見ちゃいないよ。それに見られたっていいんじゃない?」


「わかってないな。こういうのは秘密にしているから―――」



ドドン!!



 しょうもない雑談を遮って地面が震えた。


 俺達はビクリと身をすくませ、顔を見合わせる。


「なんだいったい!」


「……あ、あれ!」


 そしてリッキーが指さした先がおかしいのは俺だって一目でわかった。


「な、なにあれ……」


「あれは……」


 今まさに向かおうとしていた森が、赤く燃え上がっている。


 さっきまで雲一つなく青天だった空が黒煙で染まっていた。


 煙の発生源の森からは赤々と燃え盛る炎が見え、すさまじい勢いの炎だと遠目からでも見て取れる。


 ああいうとんでもない現象を起こす心当たりは、俺にはいくつか記憶にあった。


「なんか……すごいモンスターでも出たかな?」


「……すごすぎない!?」


「そりゃあ……すごいモンスターだったら火ぐらい吐くだろう?」


 事実、過去見たことのあるモンスターにはもっととんでもない火力の化け物がいた。


 リッキーにはあまりなじみがないようで、今から行く場所だっただけに顔色が蒼白だった。


「何基準? いやドッカンって爆発したらいきなり空が真っ赤になったよ!? あれはやばいって! さすがに逃げよう!」


 確かに俺も一瞬火山が噴火したかと思ったくらいだ。


 地球にいる頃なら、しっぽを巻いて逃げ出しただろう。


「よし……まずはせめて何があったのか確認してこう。望遠鏡なら持ってきた」


「なにそれ!? まずはって何!?」


 俺は取り出した望遠鏡で燃える森を見ると、ちらちらと揺れる巨大な影を見つける。


 森の上空で翼を広げて飛ぶその姿を一目見て、俺にはピンとくるものがあった。


「あ、あれは、ドラゴンってやつか……」


「はぁ!? ドラゴンだって!?」


 リッキーが声を上げるのも無理はない。


 ドラゴンはこちらの世界でも悪い意味で有名である。


 高ランクのモンスターで、天災とも呼ぶべき強さを持つ生物だ。


 こちらの世界の人間はドラゴンと聞けば普通なら逃げ出す。


 一方で物語では勇者の冒険譚に花を添える悪役であり、騎士や冒険者にはいつかは討伐したい憧れの存在ともいうべき、災禍の権化だ。


 俺はブルリと震えた。


 今までの俺が前に立っただけでも死ぬ相手なのは間違いない。


 だが相手がモンスターだというのなら逃げ出すわけにはいかなかった。


「……よし」


 取り乱すリッキーに俺はニヤリと笑って見せ、そして気合を入れて言った。


「さぁ予定通り起動実験だ!」


「えぇ! なんでドラゴンを見てそんな結論になったの!?」


 涙目のリッキーだったが、やらねばならない。


 これはチャンスだと俺の中の何かが全力で叫んでいたからだ。


 こうも全力で叫ばれては足を止めてはいられない。


「そりゃそうだろ! ……リッキー、もし俺が負けたらわき目もふらず逃げてくれ」


「……そうさせてもらうよ! ドラゴンなんかと戦ったら骨も残らないぞ。まったく……」


「その時は大いに笑ってくれていい。 家のテーブルの下に秘蔵のボトルが置いてある! その時は全部飲んでよし!」


「……そいつは断るね。どうせなら、生きて帰って打ち上げで開けよう」


 俺達は拳を一度ぶつけ合い、大急ぎでスーツの起動実験の準備をし始めた。


 この瞬間に俺達の獲物、記念すべき一発目はドラゴンに決まったわけだ。




「いそげいそげいそげ……!」


「わかってる……わかってるから……!」


 ガチャガチャと外部装甲が装着されてゆく。


 思いのほか着ることが大変なのは今後の課題とメモしておこう。


「よし……外部装甲取付終了!」


「ヘルメット……兜とって!」


「はいこれ!」


 俺は慌てて手渡されるヘルメットをかぶる。


 リッキーの気配が離れると、耳元からテラさんの音声が聞こえてきた。


『音声は聞こえますか?』


「ああ! 聞こえてる! 各部起動確認! 計器に問題なし! リッキー! 外から見た感じどうだ?」


「え? っと問題ないように見えるけど、この兜なんで目が付いてるの?」


「外から中の状態が一目でわかるように表示が変わる! 死にそうだったら白目をむくから気を付けてくれ! まぁ遊び心だ! 結構かわいいだろ?」


『動作正常。メインパワーに切り替えます。作業員は退避してください』


 振動が徐々に強くなっていた。これは動力の音なのか俺の心臓の音なのか。


 ただ血が激流になって巡っているのは、俺もスーツも同じ気がした。


「リッキー……いよいよだ!」


「よし! がんばれ!」


「おう!」


 返事をすると背中のメインパワーから電力が供給され、スーツが本格的に唸りをあげた。


 各部に力が行き渡り、その目に電光の光が灯る。


 ブゥイーンと振動が伝わった時点で俺のテンションも限界値を超えていた。


 せめて一目完全体のパワードスーツの姿を外から拝みたかったが、今回は我慢しよう。


 それが我慢できるくらいには、初陣の高揚は全身を駆け巡っている。


『起動します』


 最初にテラさんの声を聴いた瞬間、俺は立ち上がる。


「来た来た来た来た!」


 俺は叫ぶ。


 本格的に動き出したスーツから漏れ出る光はひときわ強さを増して、俺を鼓舞しているようだ。


 最後に俺はしっかりと白いマフラーを巻いて気合を入れた。


 スーツの力はどれくらいのものか……俺はぺろりと乾いた唇を舐め、前だけを見つめる。


 そして全力で足に力を込めて、とにかく前に飛ぼうと踏み出したが―――。


「うお!」


 俺は一瞬パニックになった。


 気が付くとえぐれた地面にひっくり返っていたが、身体は何ともない。


 どうやら予想外の加速でバランスを崩したらしい。


 注意喚起するテラさんの声が耳元で響いた。


『落ち着いてください。慣れるまでは慎重にいきましょう』


「お、おう。ちょっと驚いただけだ」


『急ぎましょう。ドラゴンは比較的危険なモンスターです』


 俺はどうやらドラゴンを知っている風のテラさんに尋ねた。


「知っているのか? テラさん」


『はい。初戦の相手としては悪くないでしょう』


「ほほう……言うね」


『当然です。しょせんは羽の生えたトカゲ。多少火を吐く程度で我々のテクノロジーの敵ではありません。後付けの装甲はわかりかねますが』


 なんて言ってくるテラさんはここに来て何より頼もしく感じた。


「いいね! ……そうでなくっちゃ!」


 俺は改めて立ち上がり、今度こそドラゴン目掛けて駆け出した。


 体が恐ろしく軽い。


 少し力を込めただけで、まるで風のように体は地面を走る。


 森に到達し、木々が流れる道となり、炎の壁もアッという間に突き抜けて、俺は戦場の真ん中に飛び込んだ。


「……!」


 そして空を見上げると、渦巻く炎の中に巨大な生物は飛んでいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ