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PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
トシの秘密編
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見物人達の話

 少し時間は戻り、一人のドワーフと一人のエルフが拠点を設営していた。


「よーし、これでいいかな?」


「こっちも大丈夫だ」


 持ってきたテントを立て、テーブルを用意。準備してきたモニターを設置するとそこからテラさんの声が聞こえた。


『それでは本日はよろしくお願いいたします。このモニターに二人のデータを映し出しています。異常な状態に反応してアラームが鳴りますので、状況に応じた対応をお願いいたします』


「わかった。任せておきなさいテラさん」


「僕あんまり自信ないなぁ」


 自信なさげなドワーフのリッキーは遠い目をして呟いた。


「……ねぇ、僕ら担がれてない? 変身ってどうなの?」


 リッキーはトシさんが怪物に変身することにまだ懐疑的なようだ。シルナークはどちらでもいいようで、全然関係ない転移装置の話を始めた。


「さてな。そんなことよりあのここまで転移したアイテムには無限の可能性があると思うのだがどうか?」


「へ? そりゃあ、気軽に遠出できるのは面白い……って今はいいだろ? だってトシさんが変身するって言われてもさ、あの動く絵を見せられて驚いちゃったけど、普通に考えて嘘っぽくない?」


「……まぁ変身はジョークだとしても、面白いことにはなりそうだぞ?」


 シルナークの視線の先には、激しく戦うダイキチとトシさんがいた。


 二人とも信じられない高さまで飛んだり跳ねたりしながら、どったんばったん岩を破壊していた。


 あれだけ動き回っているのに、アラームはまだなっていなかった。


「うわーまたなんか派手にやってるー、鎧大丈夫かなぁ。修理するの僕なんだけどなー」


「まぁ諦めるしかないだろうな」


「だよなぁ」


 ただ豆のような戦いを見ているのも微妙に退屈で、二人の雑談は続く。


「なんか無茶やってるよね。何でそこまでするんだか」


「そうだな。それにわざわざ私達に声をかけんでもよさそうなものだ」


 するとその疑問にはテラさんが答えた。


『予想ですがおそらくは、保護者のプライドみたいなものではないかと思われます』


「なにそれ、ダイキチが保護者? イメージに合わないね」


「それはなんだ? トシさんをダイキチが保護していると?」


『肯定します。形式上、マスターはトシさんの保護者として登録されています。ニーニャもまたそうです』


 事情を聴いたリッキーはにやにやしてテラさんに言った。


「へーそうなんだ。じゃあ、ダイキチのやつ、ちょっといいとこ見せたかったってわけかな?」


『肯定します』


「ああ。なるほどな。確かにダイキチのやつはそういうところがある」


『肯定します。しかし今回の検証は危険が伴います。お二人は友人というカテゴリーなので声をかけやすかったのでしょう。今回は計器をかなり持ち込んでいますので、非常時は速やかな撤収をお願いします』


 だがこの状況になった理由をテラさんが分析すると、ちょっと照れるリッキーとシルナークである。


 ピーと音がする。


 その頃ダイキチは、派手な一撃を食らい吹っ飛ばされていた。


 ダイキチの心拍数が跳ね上がったが。数値は正常に戻る。


 一瞬だけ視線を向けた二人はすぐに話を再開した。


「いや、でもさ。ダイキチのところには妙な顔ぶれが集まるよね。貴族のお嬢様の時もビックリしたけど、前に魔石拾いに誘われた時は王都の兵士の人達とも仲がいいし、魔法使いの女の子を紹介しに来た時にはやばいことに首を突っ込んでいるんじゃないかと思って本気で引いたなぁ」


「そうだな。何気にあいつもとんでもないが、本人にあまり自覚はない」


 人脈という点でも、行動の突飛さでも、ダイキチは相当おかしいというのは、二人のというよりも鉱山街での普通の評価だった。


「でも行動もなんか変なのに、どこか憎めないのもすごいね。ああいうのも人徳っていうのかな?」


「良くも悪くも、注目を浴びやすいのだろうな……まぁあれだけバタバタもがいていれば目につくのも当然か。どうにもあいつを見ていると、水鳥が池の真ん中で溺れているのを見ている気分になってくる」


「あぁ。確かに危なっかしくて見ていられない感じがあるなぁ。手を出すと何かに巻き込まれるんだけどさ」


「それが面白いくせによく言う。でなければ進んで協力なんてしないだろう?」


「まぁね。シルナークだってそうなんだろう?」


 クックックと悪い顔で笑うリッキーはとても珍しい。


 つられてシルナークも苦笑を漏らした。


「もちろん。それに得る物もある。テラさんからは他の世界の素材について資料提供もあるしな」


「僕も、ダイキチの仕事を受け始めてから、腕が上がった気がするよ。変なもの作ることが多いからから。こないだなんて金属製の靴底だよ? なんに使うんだか」


 その時、地面から砂柱が噴き出て、二人の視線が同時にダイキチへと向く。


 そこには巨大なミミズが地面から出てきて、ダイキチとトシに襲い掛かるところだった。


「……あら、此処ってモンスター出るんだね」


「……そのようだな。少し警戒しておくか」


 自分たちの身にも危険が降りかかりそうだと判断したリッキーとシルナークは声を強張らせている。


 更にミミズが爆散すると、ビクリと椅子から腰を浮かせた。


「え? 何が起こった?」


「わからない。モンスターが死んだ?」


 ピーピーピー。


 けたたましくブザーが鳴り、素早くモニターに視線を向けたリッキーとシルナークにテラさんが矢継ぎ早にしゃべりだす。


『トシさんの数値に異常があります。心拍、体温が急上昇。体内に未知の物質を確認。角に高エネルギー反応あり。増大していきます』


「え?」


「うん?」


 岩場に豆のようなトシさんの姿を探すと、探すまでもなくすぐに見つかった。


 それは資料として見せられた片角の化け物で、今まさに巨大化して空に向かって吼えている姿だった。


「グオオオオオオオオ!!!」


 ビリっと音が鼓膜に時間差で届き、リッキーとシルナークの目が点になる。


「うわぁ……。本当だったんだなぁ」


「見ろ……ダイキチがノミの様だぞ?」


 のんきに呟いた後、リッキーとシルナークはいつでも逃げ出せるようにバタバタと大慌てで、撤収の準備を始めた。


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