検証
襲い掛かって来たトシのパンチをかわす。
体当たりの様な一撃は体ごと俺の横を通り過ぎ、巨大な岩に突っ込むと、岩を粉々に粉砕した。
「……」
そして本人はケロッとした顔で瓦礫の中から出てきて、傷一つなかった。
「さすが穴掘りマスター。頑丈だなぁ」
「……? オレ頑丈」
しばらくは回避に徹して様子を見ることにした。
改めてこうして対峙すると、トシの圧力は半端ではなかった。
有力な仮説としては、戦闘時、闘争心に火が付き、限界を超えると変身するというものだ。
リッキーとシルナークには少し離れた位置でこちらを観察してもらっている。
トシのチェックもだが、危ない時は逃げ出す手はずは彼らに整えてもらうことになる。
『心拍数が上がっています』
「うるさいよ。戦いの前は緊張するって」
『そうではなく。トシさんの方です』
「え? そうなの?」
『はい、来ます』
突進は続く。
二度ほどかわすがその常識外れのパワーに驚かされた。
「やっぱり……速いな」
「……次は当てる」
なるべくなら当てないでほしいのだが、ならばこっちも気合を入れて避けるとしよう。
山で修行した成果で、一層その小さな体からあふれ出す荒々しい力が視覚的にもバッチリ見えて、腰が引けてしまいそうだった。
現時点では、攻撃も正確でまだ落ち着いていた。
暴走という感じではないが、それはそれで的確に殴り飛ばされそうだ。
「テラさん。トシの心拍数は上がっているか?」
『はい。戦闘開始に急速に跳ね上がり、動くたびに上がっています』
「正常と言えば正常か。……だけど、俺の方も余裕なくなってきたな」
蹴りが飛んできて、その後は腕。
一打、間近を通り過ぎれば、ぞっとするような風切り音が聞こえ、ボッと粉塵を巻き上げる。
俺としてはよい誤算だったのが、仙術の修行のせいか、相手が狙っている位置がなんとなく前もってわかることだろう。
力を込めた場所が見れるのは、わかりやすい。
だがわかっていてもぎりぎりだった。
「……ぐっ!」
ついよけそこなったパンチを両腕で受け止めると、軽々と十メートルほど体がぶっ飛ばされた。
勢いを殺すことには成功したはずだが、自分の意思ではなく吹っ飛ばされるのは心臓が凍り付くような恐怖があった。
どっどっどっと、俺の心拍数も派手に乱れている。
着地した俺をトシは楽しそうに見ていた。
「あっぶなー……死ぬかと思った」
『回避は正確にお願いします』
「わかってるよ!」
叫んだ時には、もうトシは目の前まで跳んでくる。
「おおっとぉ!」
「オオオオオ!」
地面にくっつくほどにしゃがんで回避。頭上を回し蹴りがぶったぎる。
角度を変えてかかと落としが頭をかち割りにきて、俺は地面を転がった。
「さ、殺意が高い……」
『変化はなし。変身の兆候はありません』
「明らかに変化あるけど!?」
『心拍は一定値から上がっていません。血圧の若干の上昇を確認。ともに高いですが想定内です』
「そうなの!?」
これは思ったよりもきついかもしれない!
パワードスーツをもってしても、互角以上に持っていけないとはちょっと想定外だった。
「ぬぐ! 仙術の修行とかしているのに! 全然攻め切れてない!」
『マスター。もう少し追い詰めていただかないと検証になりません。しかし仙術という技術を習得後トシさんに対抗できるほど劇的な変化があったようには……』
「そういうこと言わないでね!?」
ええい! こうなったとことんつきやってやるさ!
気合を入れなおし、そろそろ攻めに転じてやろうかと思っていたその時、地面がわずかに振動し始める。
「……なんだ? 地面に何か?」
『高速で地下から巨大な熱源が接近してきます』
「! トシ! 下だ!」
俺が叫んだとたん、地面が砕けて長い巨大なものが、飛び出してきた。
トシと俺は飛びのいて攻撃をかわす。
現れた大きなミミズのようなモンスターに俺は心当たりがあった。
「ありゃあサンドワームか! ここモンスターも出るのかよ!」
サンドワームは地中から獲物に襲い掛かり、捕食するモンスターだ。
最初の攻撃をかわされたサンドワームは鎌首をもたげ、ずらりと歯が幾重にも並んでいる円形の口からよだれをまき散らしていた。
だが俺はそれを見上げるトシの目が赤くギラギラと輝き、彼の一本しかない折れてない方の角にものすごい力が集まっているのが気になって仕方がない。
「グラアアア!!」
トシが吼え、高まっていた力が解放されると角がバチバチと火花を上げて、光弾が撃ち出された。
一秒にも満たず、サンドワームは粉々に粉砕され、血の雨が降る。
『モンスターの撃破を確認しました』
「ああ。ああいうの人間の時にも出せるんだ」
俺はそんな血の池地獄のような光景を目の前にして、思わず頬をひきつらせていた。