緊急会議
「少し協力してくれないだろうか?」
俺はそう言って、リッキーとシルナークの二人を秘密基地に呼ぶ。
そして俺は、トシを呼んできて俺の隣に座らせると、久しぶりの緊急会議となった。
地下の作戦室に集まった俺達は、空中に浮かぶディスプレイを全員で見ている。
そこにはトシの写真が映し出されていた。
『個体名トシは異世界より何らかの要因でやって来た生命体だと思われます。人類に極めて近い外見を持っていますが、はるかに超越した身体能力を有しています』
テラさんの解説に全員が頷く。
まぁそれはドワーフにも勝る、掘削能力一つ取ってみてもわかっていることだった。
リッキーはまず俺を見て言った。
「で、どういうこと? 穴掘り勝負? やめときなよ大人げない上に勝ち目もないよ?」
「いやそういうことではなく」
「ではなんだ? 急に手合わせすると宣言されても意味が分からんぞ?」
シルナークも、面倒くさそうな顔をするので、俺はばつが悪くなってきた。
「いや、トシは、こないだの旅の途中で拾って来たんだけど。はっきり言ってわからないことが多すぎてね」
「ダイキチがそれ言う?」
リッキーが容赦がない。
仕方がないので俺は正確な情報を共有することにした。
「いや正体不明な事が問題なんじゃないんだ。トシはなぁ。……なんかの拍子に変身するんだ。それがちょっとばっかし危険で……な?」
俺がそういうとトシはこくんと一度頷く。
だが、リッキーとシルナークの二人は顔を見合わせ、失笑気味だった。
「変身だと?」
「はは、おおげさだなぁダイキチは。穴掘り名人とはいえ、トシさんは子どもだよ? 危険だていうなら、パワードスーツでも使って止めたらいいよ」
「うーむ……」
前回の危うく捻り潰されそうになった戦いを思い出すと、パワードスーツではどうにもならない気がしないではない。
答えられないでいる俺にシルナークは肩をすくめた。
「……いまいちわからん。テラさん補足してくれないか?」
『了解しました』
シルナークがテラさんに確認するのはいっそ話が早い。
テラさんは、ためらいもなく変身後の映像を画面に出す。
トシも変身後の姿を初めて見たのか目を丸くしていた。
俺の戦闘が記録された映像は、無駄に高画質だった。
「「……」」
リッキーとシルナークは黙り込み、トシをジッと見ていた。
俺はトシの頭をポンポンと軽くなで、コホンと咳払いする。
「えーっと、まぁこういうわけで。もう町の人と仲良くなってるっていうなら、ちょっと急いで変身条件くらいは知っとかなきゃまずいかもしれん」
「いやそれ絶対必要だろう?」
シルナークがすぐさまツッコミ、リッキーはぎょっとして尋ねて来た。
「むしろなんで今まで放っておいたのさ?」
「それはなぁ……」
俺は言い淀む。
もちろんそんな時間がなかったのは間違いないんだが、少しでも引き伸ばしたい理由は簡単だ。
俺にはなんとなくぼんやりとだが、変身する法則性を見極めるのに必要なことが分かっていたからだ。
渋い顔をする俺に、テラさんが考察を進める。
『トシの証言から、過去この世界に来て二度変身したことがあると考えられます。一度目はオーガと呼ばれるモンスターと遭遇し交戦した際に一度。二度目もまたオーガの集団と戦闘をした際に変身したと思われます』
「つまり、もう少し条件を絞るには?」
『お察しの通り、戦闘を行い、条件を近づけて検証するしかないかと。元に戻るための情報も含めて情報が必要かと思われます』
「……」
うん。そうなんじゃないかと思った。
「というわけで……協力してくれないだろうか?」
「「……!!!」」
なんとも言えない空気が流れる中、トシだけがいまいちわかっていない風に俺を見上げていた。